2007.11.27 第39回「プロとして生き残る」

 プロサッカー選手の1年、1週間のスケジュールはともに逆算の発想で組まれるものだからして、原理は一緒、自ずと似てくるらしい。そんな話を、先日、梅山修さんから聞いた。
 たとえば、1年のスケジュールを見てみよう。開幕戦がリーグのスタートだからして、そこにピークを持っていくのかという問題はさておき、当然開幕戦の日程に合わせてキャンプの日程は組まれていく。アルビレックスでいえば、まず、お馴染みの始動日がある。最初からグアムに行けばいいのにという声をよそに、あの寒い聖籠に集まって、1週間簡単なフィジカルメニューをこなしたりしているが、フィジカルの強化が目的というよりも、メディカルチェックや、写真撮影など事務的なことを新潟で行う必要があるかららしい。そうだろう。あの程度のフィジカルメニューは自主トレでやっているだろうし、まぁ、新メンバー同志の顔合わせ、ファンサービスの色も濃いんだろうな、と思う。
 そして、それからグアムへ向かい、3週間で、1年間戦えるような体を作るべく激しいフィジカルトレーニングを行う。これは本当にきついそうだ。そして、日本に戻って戦術練習、トレーニングマッチをこなしていよいよ開幕となる。開幕戦では、きっちり仕上がった新チームが完成している算段である。
 そして、シーズン終了間際の11月の終わり頃来年の契約提示を受ける。彼らは、年間契約をして、チームのために戦うプロ選手、いわば傭兵であるから、原則、終身雇用となっている一般企業から、リストラで突如クビを言い渡されるのとは少し違う。もっとも、そこまでドライな選手がいるわけないんだけど、まぁ、プロなので、自分の商品力を買ってくれるクラブを探すまでだし、逆に、来年の契約を打診されても、よりよい条件を求めて新しいクラブを探すという選択肢も当然あるわけである。そして、ようやくシーズンオフ。もちろん、体が資本のプロ選手なので、遊び呆けていれば、そのツケは数ヶ月後自分の身に降りかかってくると・・・

 以上が年間のスケジュールであるとすれば、1週間のスケジュールはこれの縮図である。仮に土曜日にゲームがあった場合は、日曜日はクールダウンで、戦いの疲れを癒し、体力が早期回復するように調整する(12月)。月曜日がオフ(1月)。火曜日がフィジカルトレーニング(グアムキャンプ)。水曜日が、次の対戦相手を想定した戦術練習(静岡キャンプ)。そして、木曜日が、紅白戦等を行い、実戦の中で戦術を細かく確認(TRG)。非公開が多いのはこのためであろう。金曜日は前日の試合に向けリラックスゲームなどで軽く調整。そして移動。基礎技術が完成しているプロ選手なわけだからして、キックやシュート、ドリブルの練習は全体では行わず、それは居残りなどの自主メニューで各自補うことになる。

 言うまでもないが、人生も同じようなものであろう。誰もがこうなりたい、ああしたいということがあるはずだ。ただ、そこで成否を分けるのが、何か目標を立て、そのために何をすればいいのか自分で考え、実行するというマネージメント能力があるか否かであると思う。他人を羨ましがっているだけで、自分にも幸運が舞い込んでくるほど人生はドラマティックではない。
 梅山さんは、あくまでも本人の弁だが、サッカー選手としてはまるでダメな10代を過ごしたらしい。選抜やセレクションにもことごとく落ち続け、大学にも落ちた。唯一通ったのが、彼のキャリアのスタートとなったNKKで、そこで彼は改めて自分の人生の目標を立てたらしい。「プロ選手になりたい」。
 技術的に劣る自分がどうすればプロになれるか。どこで差を付けられるか。そればかりを四六時中考え、実行に移していたそうだ。例えば、当時まだあまり広まっていなかった食育の問題。体に良いと聞くものはなんでも取り入れ、逆に悪いとされるものは、排除した。彼は今でも、トンカツを食べるのにも衣を外しているが、それは当時から続く名残で、現役を引退しても習慣付いてしまっているのだろう。また、足元の技術では叶わないので、いかにポジショニングをよくするか、ボールを持っていないときの動きを研究、工夫し、判断を速くした。プロ選手の寿命は短い。30歳が人間の60歳(定年)に当たると考え、なんとかこの年齢まで続けられる選手になろう。そして、努力の甲斐があって、その目標を達した後は、これからのサッカー人生はいわばおまけであるが、出来る限り長く続けられる選手になろう、と更に努力を続けたそうだ。

 先日、クラブより、契約を更新しない選手が発表されたが、シルビーニョをのぞけば、ほかは皆、若く、成長途中の選手である。ひょっとして、まだまだ努力が足りなかっただけなのかもしれない。初めて、壁にぶつかった者もいるだろう。何れにせよ、どんなお金持ちが金にものを言わせても買うことが出来ない素晴らしい才能を有した一握りの人であるわけだから、初心に返って、また努力をし続けるだけだと思う。定年までまだまだ時間はある。新天地での活躍を心より祈ります。

2007年11月27日 14時29分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。