2006.05.15 足元を固めよう

 今日は日本代表の発表がある。このコラムが表に出るときには既にそのメンバーが明らかになっているだろう。Jリーグで勢いのある巻、佐藤寿はどうなったのか。サプライズはあるのか。俺と同い年のカズは選ばれるのか(ヲイ)。どうせサプライズがあるなら、イングランドがアーセナルの17歳のウォルコットを選んだように、また「俺が近所の公園でリフティングしていたら」(矢田容生著・小学館刊)のように、いっそのことアトムあたりを選んで欲しいところだが、まぁそうはいかんだろう。

 新潟もサッカーではまだ幼な子同然。未来の新潟からの日本代表を夢見つつ、ワクテカで発表を待つことにする。

 ジーコ監督は、選手との信頼関係を重視してきた。ある意味日本的なウェットな関係だ。サッカーはチームスポーツであり、信頼関係を築くことは重要なこと。周辺が騒がしくとも意固地とも言えるほど一貫したポリシーのもと選手を起用し続けたジーコに選ばれた選手は、その監督からの厚い信頼を受けながら、ドイツで大きく飛躍して欲しいものである。

 さて、我が新潟の鈴木監督。この人もなかなか意固地な面がある。例えば、矢野を信頼し使い続けているし、ルーキーの中野もスタメンから外さない。ただ目に見えて成長しているところが嬉しいところ。逆に「サプライズ」な起用も多い。ナビスコカップ清水戦で思い切った若手の起用。そのなかでもキーパー北野は、その後もスタメンに定着しそうな勢いである。鈴木監督は「調子のよい選手を使う」と言っているが、この監督のテーマと言おうか、選手起用の軸足はまさに「育成」にあると思う。昨年フロントは、チームの若返りを図り、在籍メンバーに大ナタを振った上で、その育成を鈴木監督にゆだねた。そして、鈴木監督はこのミッションを忠実に遂行している。実に頼もしい。

 リーグ戦再開後、浦和、鹿島、横浜FM、千葉と強敵との対戦を控えており、あまり考えたくないが、順位が下がることもありえる。しかし、鈴木監督が今やろうとしているのは、選手個人の育成だけではない。チームそのものを着実に成長させている。多少順位が下がったからといって騒がず、僕らも監督と選手を信頼して、精一杯応援しよう。

 さて、そんな僕らにできないことがひとつある。まぁ、サポーターなんぞにできることは応援しかないのは分かり切っているが、僕が言いたいのは、スタジアムをいっぱいにすること。サポーターだって草の根的活動はできるが、『観客を呼ぶこと』、自体は企業としての営業力の問題なのだ。サポーターの守備範囲ではない。

 それでもクラブの努力によって市陸時代に比べれば、確かに底上げはできた。それなりにイベントもこなしている。しかしながら、今までのこのリレーコラムの流れ的に言えばnot enoughなのである。クラブは常にスタジアムを満員にするための努力、つまり『新規顧客の獲得』と同時に新規顧客および既存顧客の『顧客満足度を上げる努力』をしているのだろうか。顧客満足度を上げること、それはすなわちリピーターを作ることにほかならない。リピーターがいなければスタジアムは埋まらない。現実に僕自身は試合内容以外で満足を感じたことがあまりない。営業と言う観点からは相手サポーターの満足度も高める必要があるだろう。

 新潟市の人口から見て、4万2000人のスタジアムを絶えずいっぱいにするには相当無理がある。と僕は思う。80万人という人口を4万人で割れば、20分の1。20人にひとりがスタジアムに足を運ぶ計算になる。もちろん新潟県全域から足を運ぶ熱心なサポーターも多いが、この分母となる80万人には赤ちゃんからお年寄り、仕事や学校でスタジアムに行けない人も含まれている。こういった環境のなかで、いかに毎試合スタジアムを埋めていくのか、については相当な努力が必要であることは誰もが理解できるだろう。

 もはや新潟はのんきに他クラブから視察を受け入れている場合ではない。チケットばら撒き作戦の成功体験はひとつのケーススタディとしてファイルし、新たな確固たる戦略を持って「営業」すべきだ。またサッカーに限らず成功しているものはすべて検証しよければ取り入れる必要がある。もう一枚脱皮しなければならないのだ。「忙しい」なんて言い訳は、スタジアムで閑古鳥が鳴いたときには何の役にも立たないことは分かっているはずだろう。そしてクラブはサポーターとの間に距離を置かず、また変な遠慮をせず、お客さんであるサポーター側にグッと歩み出て欲しい。

 翻って、僕らサポーターはどうだろう。僕らは応援しかできないのだが、その応援もクラブによってカラーがある。他所をまねる必要はない。上述のように老若男女が集まってスタジアムが埋まる現状をもう一度認識し、熱いスタジアムは必要だが、殺伐としたスタジアムなんて必要じゃないことを理解すべきだ。ベストセラーとなった「国家の品格」(新潮社・藤原正彦著)で著者は「日本は国柄を失っている」と書いているが、僕らも新潟のお国柄を失ってはいけない。同書は日本のナショナリズムを煽ろうって内容だが、僕らも新潟独自のナショナリズムを高揚させるべきだ。

 クラブもサポーターももう一度足元を見て、そして磐石な礎を築いて楽しく充実した週末を迎えようではないか。実は、着々と足元を固めているのは鈴木監督ただひとり、という気がしてならないのだが。

2006年5月15日 篠崎 徹

PROFILE of 篠崎 徹
しのざき とおる 1966年生まれ。東京都出身。W杯やアルビレックスJ1昇格など新潟サッカー界で一番オイシイ時期を新潟で過ごす。2004年に東京へ転勤。以後アウェイでのアルビレックスを盛り上げようと日々奮闘中。