2007.05.21 夏の日の1993

 「Jリーグのチケットがあるんやけど…」

 という言葉、いやチケットがチカラを持っていた時代は、一瞬ではあったものの、確かに関西にも存在した。いつしか「Jリーグの…」がイチローの登場により「オリックスの…」に変わり、ここ数年は「阪神の…」と入れ変わって行くわけだけど。まあ、チカラを持ったチケットの使った効果に関しての話はここではスルーの方向で。

 21世紀の今となっては想像するのが難しいほど、開幕からしばらくの間はJリーグのチケットほど取りにくいものはなかった。当然のことながらインターネットや携帯電話が普及している時代ではない。コンビニでチケットを購入できるわけでもない。チケットぴあのあるダイエー明石店の店頭に並びつつ公衆電話から電話でチャレンジ、という極めて20世紀的なアプローチでなんとかチケットを確保した、そんなアナログ感のにじみ出る時代の話だ。

 はじめてJリーグのリーグ戦を観に行ったのが1993年6月5日。神戸ユニバー記念競技場で行なわれたガンバvs名古屋の試合だった。当時まだセレッソや京都サンガはJFL。後年、ユニバーの主となるヴィッセルにいたっては川崎製鉄と、その母体となるクラブはまだ岡山・倉敷にあった、そんな遥か昔。必然的に関西でJリーグといえばガンバ。当時の人気チーム、ヴェルディ川崎とのプレシーズンマッチが甲子園で行なわれ、FM802にチューニングを合わせればオルケスタ・デル・ソルの歌う「太陽のイレブン」が流れていた。

 名古屋とガンバといえばJリーグ創設以来一度もJ2に落ちていない真っ当なクラブと言えるのだろうが、この試合が行なわれる前までは名古屋が8位、ガンバが9位という下位同士の対決(ちなみにこの時点の最下位は浦和)。前半早々に名古屋が先制。普段クールな名古屋出身の友人が歓喜のあまりアホほどうれしがってる姿を見て、「地元にクラブがあるって、なんて素敵なことなんやろう」とつくづく実感させられた。と同時に、このまま名古屋が得点を重ねるんだろうなあ。もう、試合なんてどうでもいいからリネカーのゴールが見たいなあ、なんて思ってたこの試合、思いもかけない記録的なシーンに遭遇することになる。

 それは日本人初のハットトリック。

 決めたのは森山泰行(いまだ現役!)でもなければ、この試合で先制点をあげたマッチ棒みたいなジョルジーニョでもない。ビフォアアフターというよりアフタービフォアな礒貝でもなければ松波でもない。もちろん中西哲生でもない。なぜか、この年限りでガンバを離れることとなった永島昭浩その人であった。ゴールが決まるたびにプープープープー、チアホーンの鳴る光景も今や昔。ちなみにJリーグ初のハットトリックは当時のオレのアイドルZico。しかも相手はこれまた名古屋。テレビ大阪でオンエアされた生中継にかぶりつきで見ていた上に、もちろんしっかりビデオに録画。ツメを折って完全保存版にしてたわりには、14年経った現在、どこにも見当たらないのだが…。

 さて、話がハットトリックに移ったところで、ようやく本題に(前置き、長っ)。

 Jリーグ加入後、リーグ戦でハットトリックを達成したアルビレックスの選手はわずかに3人(6回)。しかもJ1に上がってからというもの、俺たちのホーム清五郎で達成した選手は、悲しいかな、いまだにゼロ。一方でJ1昇格後に決められた回数はホーム1のアウェイ3。見事に清五郎マジック発動と言えるのかどうなのか、非常に微妙なとこではあるけれど。とにかく1日も早くビッグスワンでハットトリック達成! の瞬間を見てみたいもの。もちろんハットトリックだけがサッカーの華というわけではないけれど、まあ相手チームに決められるよりは精神衛生上、かなりいい。だいぶいい。ずっといい。個人的には代表招集でマークも厳しく、疲れの見える矢野貴章ではなく、むしろ深井や河原に大きな可能性を感じているのだが、みなさんは誰を予想されるだろうか。

 いずれにせよ東北電力スタジアムビッグスワンと名称変更されてからも初のハットトリック。ぜひとも、達成した選手には電気代を1年間無料にしてほしいものだ。新潟の夏は意外に暑く、冬はもちろん寒いことこの上ない。おそらく電力消費量もバカにならないのではないだろうか。あ、もちろん夏場のエアコンは28℃、冬場は20℃でお願いしますよ。

 いやいや、いっそのこと8月に神戸ユニバー記念競技場で行なわれる神戸vs新潟の試合で決めてくれてもいいんだけど。そして15年前には味わえなかった「地元のクラブがあるってなんて素敵なことなんやろう」としみじみ嬉しがらせてくれても、ええねんで。

2007年5月21日 13時00分 塚田 義

PROFILE of 塚田 義(つかだ ただし)
1972年生まれ。新潟市出身。進学を機に神戸へ。初めてアルビレックスを生観戦した2002年7月の長居(セレッソ大阪戦)以来ズブズブとゴール裏へ。ナニワナイトや関西発バスツアーなど今年も画策中。