2005.08.01 親の背中を見て子は育つというけれど

 欧州のビッグクラブの来日興行に心ときめかしたのも今は昔、といったら言い過ぎか。期待はずれのパフォーマンス、普段見かけない観客層が作り上げるピントはずれの間。2年続けて騙されるほどフットボールファンは甘くないのか、ただ単にミーハー層が飽きただけなのか、いずれにせよ今年の親善試合は各地で空席が目立つこととなった。
 その代表格がレアル・マドリーであろう。なんせ、集金ツアーと揶揄される2週間で世界を1周する無茶苦茶なスケジュール。日本人でも顔をしかめる蒸し暑さの中、ひどいパフォーマンスをみせてくれた。ピッチ上で舞えないジダン、ディフェンダーを置き去りに出来ないロナウドなんて、クラブのプロモーション上からいっても百害あって一利なし。大金を払って招待した手前、持ち上げなきゃいけないアナウンサーのよいしょ、系列局のワイドショーによるお祭り騒ぎが白けムードに拍車をかける。

 僕は全くのノンポリで、右的な考え方も極めて薄いのだが、それでもアジアのフットボールファンを小馬鹿にしたような、欧州クラブの浅はかな商業戦略を見せつけられるとさすがに腹が立ってくる。これではプチ帝国主義ではないか。
 ということで、今回のガラガラのスタンドを見るにつけ、日本人をなめんなよ、と少しは溜飲を下げた次第だ。プロサッカーリーグが誕生して10年超。代表チームだって、ワールドカップ16強だ。彼らの思うがままに踊るほど愚かではないし、サッカーに飢えているわけではない。少なくとも、サッカーにおいて「本物」を見極めることは出来ているつもりだ。各チームのマーケティング担当者には猛省を促したい。

 さて、こう書くと、ここまでの流れが壮大な前振りだったように聞こえるが、昨年、バレンシア、ボカ・ジュニアとそうそうたるチームと戦った新潟は、時代を先取りしたのか、中国リーグの強豪「大連実徳」との試合だった。そう、時代の先取り(苦笑)。おい、こら、なんで苦しそうやねん、素直に笑え。時代の先取り(笑)。ほら、笑えた!
 まぁ、これは冗談として、決して強がりではなく、名前だけのビッグクラブより、本当に好勝負をしてくれる相手の方が歓迎であり、事実非常に楽しみにしていた。プロフィールによれば、ここ10年で7度のリーグ制覇を誇る超名門。新潟は、若手中心の先発メンバーが予想されており、彼らが晴れの舞台でこの強豪相手にどこまで立ち向かえるのかなど興味は尽きない。仕事が非常に忙しく、一時は観戦も断念しようかと思ったのが、興味の方が勝り、心ときめかせながらスタジアムへ向かったのだが、、、、

 どこまでが本当の実力なのかわからないが、大連実徳もCリーグきっての名門チームと呼ぶにはあまりにも寂しすぎるパフォーマンスだった。2-2の引き分けで終わったクラブ側の人間が言うべきことではないが、プレスが緩く、さりとて、韓国クラブのように1vs1の局面にさして強いわけではない。サテライト中心の新潟が、チームカラーにそぐわないポゼッションサッカーで押しまくる展開(後半途中からは逆転したが)。フレンドリーマッチらしい緩やかなスタジアムの雰囲気もあり、「合併記念親善マッチ」の文言通りの緊張感に欠ける試合だったことは否めない。
 確かに、まだ自分の目で見ていない若手を見るという点では充分に役目を果たした。しかし、仕事を投げ出してまで行く価値があったかどうかについては、試合後の監督コメントがすべてを物語っていよう。

 そんな辛口が続く監督コメントで、絶賛されていたのが優作である。元々、妻と子供同士が知り合いということで、僕が、オフ・ザ・グラウンドでの素顔を知る数少ない選手であるのだが、礼儀正しく、律儀で、1社会人としても本当に尊敬に値する素晴らしい選手だ。
 以前、あまりサッカーに詳しくない人に、「FWが守備するのって、意味があるの?」と聞かれたことがある。戦術的には、FWが守備をし、パスコースを切ってくれることで、中盤より下の選手が非常に守りやすくなる。精神的には、しんどい時間、前線の選手が頑張って走っている姿を見て、鞭で叩かれたごとく、チーム全員が足を動かすことになる。

 前線で献身的に走り続ける優作は新潟の象徴だ。文字通り、ほとんどのプレーヤーが彼の背を見てプレーしているのだ。今回、激しい叱責にさらされた若手選手は、普段から優作の背中を見て何も感じていなかったのだろうか。せっかく、格好の手本が目の前にいるのに、それを全く生かしてないのは、指揮官でなくてももどかしい。そしてプロの選手として、君たちのプレーを見るために、いったい何人もの人が平日に2,500円のチケットを購入してスタジアムに足を運んだのかを考えてみて欲しい。

2005年8月1日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。