2005.08.22 これが良い準備というものか

 今年の夏は事務所にこもりきりだったこともあって、久しぶりに高校野球をよく見た(事務所のテレビで常時上映中)。昔は新潟県勢と並んで安全パイの一つであっただろう南北海道代表駒大苫小牧の戦いぶりにはしびれた。ただ打つだけではない。鍛えに鍛え抜かれたチームであることはその守備力、送りバンドの技術を見れば一目瞭然。野球留学生だらけの昨今、ほぼ100%を地元っ子で構成しているのもナイス。久しぶりに心洗われる好チームだった。

 J1中断期間中にこんな清らかな心に生まれ変わった私を、Jリーグは満足させられるのか。都合によりスタジアム入りが遅れた私は、一抹の不安を抱きながらいつもの席へと向かったのだが、心配は杞憂だった。スタジアムは蒸し暑い気候もあったが、再開を待ちわびたサポーターの熱気でキックオフ前からアドレナリンが全開だったし、ピッチ上における新潟の選手の気迫は、まさに高校野球モードのそれ、「全力でないものは死すべし」だったのである。
 ゲーム序盤から全員が激しいスライディングタックルでボールを奪う。技術的に優れるガンバは綺麗に繋ぐが、泥臭いディフェンスをするものなど皆無。対称的に新潟は桑原、勲のダブルボランチはもとより、最終ラインの4人も体を張った気合いの入ったディフェンスをみせる。特に桑原のスライディングタックルの美しさ、技術の高さはマルディーニ(ACミラン)にも比肩すると言いたい。華麗なマルディーニを野球名門校に例えれば、桑原は駒大苫小牧スピリットに満ち溢れた玄人を唸らせる職人芸だ。長身の体を一杯に伸ばすスライディングは全く無駄がなく、それでいてボールを確実に捉える。今年から技術不足で降格になったものの、僕も昨年まではこのポジションを務めていたので彼の偉大さを少しは分かるつもりだ。味方の攻撃参加、予期せぬインターセプト等で生じたスペースを埋めるべく、首をふりふり、ピッチを駆けめぐる。運動量、チームへの貢献度は極めて高いが、表に出ることはない、まさに黒子。

 試合は、豪雨の中、そんな桑原の歴史的ゴールで幕を開けた。J244試合目にして決めた初ゴールは、右45度の角度から、アウトで強烈なラインドライブをかけた、これまでの鬱憤を晴らすかのようなスーパーゴール。強豪相手の先制点、加えて正直想定外だった桑原のゴールにスタジアム全体が驚喜と困惑で騒然とする中、気がつくとゴール裏から、数日前に発売になったばかりの「桑原裕義のテーマ」が聞こえてくるではないか!まだ認知不足なのか、折角の晴れの舞台に、音程、音量とも微妙なのが、なんとも桑原っぽい(笑)。しかし、CD制作のタイムリミットぎりぎりに怪我から復帰し、急遽CD収録決定。そして、発売になったのを見届けてから初ゴールを決めるなど、まさにCDを意識したかのような職人芸だ。天晴れである。

 ということで、試合は予想通りの撃ち合いを制し、4-2で見事勝利した。これで3連勝。せっかくなので、相手チームガンバ大阪についても少し触れたい。
 今シーズンのガンバのサッカーは娯楽性に富んでいる。高い位置を保ち、ボールを足下に受けてから果敢に1vs1をしかけてセンタリングを狙う両ウィング(この日の家長に往年のオーフェルマウスを見た)。強力なトリデンテ(3人の卓越したアタッカー)、センターハーフの遠藤を中心とした少ないタッチでのボール回しなどは、日本版バルセロナといったところだ。新潟との比較で言えば、ゴールまでのアプローチの仕方は好対照だが、両チームとも失点が多いのはご愛敬、とにかく点をとれるのが強み。いわゆるスペクタルの提供という点では申し分なく、両軍の将とも、だてにオールスターの監督部門の投票で1,2位を争っているわけではないなと思ってしまう。
 代表の主力3人を抱え、ここに来てようやく実力に見合った人気が出てきたように思えるが(普通は逆だ)、こういう良いサッカーをするチームが普通に人気が出てくるようにならないと、日本のサッカーは良くならない。うん、勝ったからなんでも偉そうに言えるなぁ(笑)。

 キャンプ中に本当によく鍛えられたのであろう。まだ完全ではないと思うが、チームは見事にヴァージョンアップしている。悪コンディションでも走り負けないフィジカル。セカンドボールの奪い合いでみせるアグレッシブさ。菊地の加入も相当刺激になっているようでチームは良い方向に向かっているのは間違いない。さすがに、1ヶ月も期間があると、見事な「良い準備」が出来るものだと改めて感服。有言実行。これはまさにプロの仕事だ。

お知らせ1
次節は首位鹿島、そして今週末には千葉と手強い相手が続く。千葉は、柏戦をちょうどスカウティングがわりにテレビで見ていたが、走れる上に、ボールも回せるというなんとも迷惑なチームだ。おそらく、オールスターの監督投票で東西の1位に選出されるであろう両監督による前哨戦でもある。ガンバ戦でも実証されたとおり、名将同士の戦いは好ゲーム必至。新潟でもこういったイベント(http://footballdj.exblog.jp/2456149)が予定されているようで、盛り上がっている。

お知らせ2
ゴール裏コールリーダー(浜崎)からのお願い
皆さんにお願いがあります。
相手ボールのFKの時のブーイングを少し考えなおしてもらえませんか?
野沢が指示を出して壁を作っている時間帯がありますよね?この時に「ぶーぶー」と騒ぎ出す人が最近多くて困っています。
実際Jリーグでも「観客がうるさくて壁が正しく作れず失点」という事例もあります。
選手の力になるのがサポーターであって選手の足を引っ張ったら、それはいくら熱い気持ちがあっても「応援」とは呼べないと思います。

新潟の選手には「壁が作り終わるまで」は無音の時間を提供したいと思っています。

逆に相手が壁を作っている時はガンガン騒いでください。

基本的に「攻めてる時は賑やかに、守ってる時は静かに」ってのがプレーヤーが喜ぶ事です。

協力よろしくお願いします。

2005年8月22日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。