2005.08.29 失った勝ち点とモチベーション

 試合前に、NPO横浜スポーツコミュニケーションズ主催の「フットボール道場」に招かれ、サッカーライターの西部謙司さんとご一緒する機会に恵まれた。西部さんは知ってのとおりのジェフ通で、それに対し、私を新潟通と称するにはあまりにもおこがましいが、兎にも角にも、試合前に両チームのサポーターと一緒に相手チームのことを勉強し、今日のゲームを大いに楽しもうという企画である。

 ジェフ千葉といえば、申し訳ない、やはりオシムであろう。オールスターのファン投票を見ても分かるとおり、他サポーターからも圧倒的な支持を受けるJリーグを代表する名将だ。阿部勇樹という人気と実力を兼ね備えたスターを差し置いてもチームの顔として君臨するだけの図体、いや、カリスマ性を備えている。今回、私を初めとする新潟のサポーターはフットボール道場にて、西部講師により、知ってそうで知らなかったオシムサッカーの神髄について稽古をつけてもらった次第である。

 さて、千葉の代名詞となっているのが走るサッカーだ。といっても、頭の悪い犬のように闇雲に走るわけではない。それを解くキーはボールを奪った瞬間にある。千葉は原則、マンツーマンで守るが、ボールを奪った瞬間に、自分のマークを捨ててフォローに走り、局面局面で数的優位を創出。パス回しをしながら、どんどん人が押し上がり、相手チームのマークをずらし、ゴールを陥れるのだという。もちろん、これを可能とするのは90分走り続ける走力とともに、短いタッチでボールを繋ぐ技術、そして適切なポジショニングだ。これは言うのは簡単だがやるのは難しい。しかし、千葉という決して選手層が厚いとは言えないチームで、かつ、毎年のように主力選手の流出が続きながらも安定したパフォーマンスを提供する名将オシム、恐るべしである。

 ということで、メディアが知将同士の激突と煽った注目の一戦がスタートしたが、結論から申し上げると、試合終了直後は大いに落胆し、ついでに頭痛で飲み会をキャンセル、他会場の試合結果等も一切見ないで(見る気もなかったが)寝てしまうことになった。失われた週末を返せ!ということで、恨み半分、今日はちょっと辛口で振り返ってみたい。

 まず、前半。両監督のコメント等を見る限り、僕の見方がおかしいのかもしれないが、僕にとっては非常に退屈で苦痛な45分だった。申し訳ないが、「良い準備」という視点ではオシムに完敗だったように思える。
 新潟は3バックで臨んだが、千葉の両ウィングバックの高い位置取りに慎吾もリマもずるずる下げられ、見事な5バックになっていた。そこに、阿部、佐藤を中心とした千葉の軽快なパス回しが展開され、新潟は防戦一方。千葉は3バックの中央のストヤノフをはじめ、非常にパス精度が高い。そして、ボールも動くが人も動く。新潟のように縦に速く動くのではなく、ある程度流動的にポジションチェンジをし、丁寧にボールを繋ぎ、フィールドを広く使ってボールを散らしていくのは見事であった。
 一方、新潟といえば、最終ラインに5人吸収され、中央では数的不利に陥ったMFの3人がいいように振られまくる。トップの二人は孤立し、攻撃は単発で終わる。それでも、この日非常に良かった直樹を中心とした最終ラインが踏ん張り跳ね返していたが、フィードの正確性に欠き、結局波状攻撃を受ける。正直、前半を無失点で抑えられたのが信じられないぐらいであった。いや、あれぐらい引いて守れば可能なのかもしれない。しかし、それを意図的に行っていたとしたらホームゲームとしてはあまりに寂しすぎる。

 サッカーというのはよく分からないものだ。あんなに絶望した前半と同じメンバー、同じフォーメーションで臨んだにもかかわらず、後半なんとかチャンスらしい形も出てきて、一瞬とはいえ、勝利までほぼ手中に収めたのだから。
 ポイントをあげるなら、ある程度前線3人の個人技に頼る現実的な手法にシフトしたこと、そして、走る千葉よりも、新潟の方が遙かに走る、より鍛えられたチームだったということだろう。新潟がゴール前に迫る機会が増えるにつれ、千葉の選手は足がつるなりして、どんどんピッチに倒れていった。ファビーニョ、エジミウソンの驚異的なスピード、優作の運動量に対応しなくてはいけないディフェンダーは前半からボディブローを食らい続けていたようなものである。
 
 あぁ、難敵相手とはいえホームゲームである。勝ちたかった。勝ち点3を上積みしたかった。繰り返しになるが、あそこまでいっただけに。
 野沢はどうしてあんな変なゴールキックを蹴ったのだろう。時間稼ぎのつもりだったのか、遠くに飛ばすことよりもなぜか真上に高く飛ばすことを選択し、敵だけでなく味方も混乱させた。野沢だけではない、鹿島や磐田の狡猾な時間稼ぎになんども地団駄を踏み、それと同じぐらいの数、ロスタイムに同点弾をぶち込まれたことを全く学習していないのだろうか。
 反町監督はサブメンバーをどういう基準で選んでいるのだろう。青野について、桑原は終盤相当へばっていたが、守備のバランスを壊したくない気持ちは分からないでもない。しかし、よく分からないのが末岡の存在だ。末岡がピッチに立ったのは、大量リードしたガンバ戦のみ。今日のような試合でカードを切ることが出来ない攻撃選手というのは、局面を変えることが出来ない、詰まるところ信用しきれていない選手という扱いになるのではないか。
 断言は出来ないが幸治郎がサブに入っていたら、間違いなくカードを切っていた気がする。事実、彼なら、足が止まり始めた千葉のディフェンダー陣に決定的なダメージを与えることが出来たかもしれない(もちろん末岡もだが)。僕はこの日、メインで試合を観戦していたが、試合展開を見つめる末岡の背中はこの上なく寂しげであった。彼のモチベーションはいつまで維持できるのだろう。

 繰り返すが、千葉戦の結果、内容について皆さんは満足だっただろうか?僕は大敗した鹿島戦よりも後味はずっと悪かった。

2005年8月29日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。