2005.10.02 戦え新潟

 10月最初の週末は、川崎戦にあわせ、仲間内10数名で一泊二日の旅行を計画していた。昼前に宿泊先である横浜市内に着くプランで、秋晴れの中、車は軽快に関越道を走っていたのだが、群馬県に入ったあたりで異変が起きる。
 車内に漂う強烈な異臭。殺傷力さえ感じさせる化学兵器級の異臭である。最寄りのS.Aで車を止め、調査した結果、僕の前を走る仲間の車の故障であった。車は町を死滅させるかのような異臭と煙を発し続けている。ガソリンスタンドの店員に見てもらったところ、極めて高レベルの危険度。炎上の恐れアリ。ジャック・バウアーが登場してもなんらおかしくない展開であった。

 これから紆余曲折、涙と笑いと汗の数時間を過ごすことになるわけだが、懸命の努力にもかかわらず、スタジアム入りは大きく遅れた。嗚呼、誰もが大一番と認めるこの試合に遅れるとはなんたる失態。
 仲間の携帯チェックにより、大きくスタメンを変えていること、前半に失点し、1点のビハインドを負っていることは知っている。二年ぶりの等々力陸上競技場。メインスタンドの階段を小走りで上ると、川崎のチームカラーであるブルーが目に眩しかった。このスタジアムで両チームが相まみえる様子を横目に、空席を探してさまよっていると、過去の対戦が一気にフラッシュバックしてくる。やはり川崎戦は燃える。

 時計はすでに後半20分に差し掛かっていた。得点は0-1。同点、そして逆転を狙い、前掛かりで必死に攻める新潟に対し、川崎は自慢のスリーバックを中心に堅い守りを築き、カウンターを狙う。そう、彼らにはジュニーニョと、未だに背番号11のその姿が見慣れないマルクスがいるのだ。もっとも、川崎は最終ラインとブラジル人トリオを繋ぐ中盤、長橋、中村等、日本人選手の献身的な動きが素晴らしい。とにかく、チームでの約束事、狙いが徹底されている。主力が多く欠け、局面の1vs1の戦いでも新潟は苦戦を強いられていた。
 川崎のスタンドも様変わりしていた。僕の口から言うのもなんだが、数年前までは、数多い首都圏チームのone of themの感から抜け出せないイメージが強かったが、今ではスタジアム全体から見事な川崎臭を醸し出している。バックスタンドを埋め尽くすいわゆるコアサポーター。イケイケの展開もあったのだろうが、ピッチ上の選手との一体感は、新潟が長らく味わっていないものであり、この日、新潟のサポーターを大いに羨望させたに違いない。また、メインを見ても、本当に川崎が好きなんだなと感じさせるサポーターが埋め尽くしている。

 臭いに敏感だったため、思わず、「川崎臭」という言葉を使ってしまったが、兎にも角にも、川崎は見事な地域密着型のチームと変貌を遂げ、我々を迎え撃ってくれた。今の川崎は間違いなく強い。成熟した大人の香りさえ感じさせる。
試合結果は改めて言うまでもない。僕が登場してからも2点を追加され、新潟はついに4連敗。降格ラインが現実味を帯びてきた。

 この試合を振り返るに、現在の両チームの勢いの差がそのまま出た、でまとめるには書き手としてあまりに無芸であるし、勢いを理由にしては、必死で頑張る選手、サポーターにあまりに失礼だろう。
 僕は本当に悔しかった。敗戦の理由なんてものを探るのは野暮だし、そんなことを考える気力もないぐらいひたすら悔しかった。本当にその一言だ。マルクスと我那覇によって、あざ笑うかのように3点目を決められた急造GKの菊地の動きは、本職外であることを考慮すれば当たり前なのだが、彼の運動能力からすれば屈辱的なぐらい無様で滑稽で、その必死さが全く報われることなくゴールネットを揺らされた結末に、今の新潟の姿が重なった。

 新潟はこれからどこに行くのか。川崎と対照的に今の新潟は弱い。やばいぐらいに弱い。多分、今のJ1で一番弱い。ではどうすればよいのか。古典的であるが、弱いものは言い訳などせず、ひたすら努力し、ひたむきに頑張るしかないのだ。それが唯一の方法なのだ。
 それを知っているからこそ、試合後、ゴール裏からはブーイングなど全く起こらず(当たり前だ)、その代わりに大きな歌声が響いた。勝者の川崎以上の大きな歌声が敵地に響いた。選手だけに歌っているのではない。歌い手であるサポーター自身を含めた、新潟に関わる人全員に向けて歌ったのだ。こんな悔しい思いはもうしたくない。そして、この歌を悲しい歌で終わらせたくはない。これは元々、戦う男達の歌なのだから。

2005年10月2日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。