2005.10.17 S級監督の良い準備

 長かった。肉体的にも、精神的にもタフな戦いだった。5日間の合宿は決して無駄ではなかったと誰もが思ったはずだ。と、たかが勝ち点1でそんな喜ぶなよ、と思う人がほとんどであろうが、先週もお伝えしたC級ライセンス取得のことである。この週末、2日間に渡る試験が行われ、無事試験に合格することができた。受講者の中にもこのページを見ていてくれる人が多かったようなので、インストラクターを務めた有田、岡田コーチを初め、参加された30余名、そしてFC新発田ジュニアユースの子供達にこの場を借りて謝辞を伝えたい。

 と、今週も隔離された2日間を送っていたため、大事なヴェルディ戦が行われていたのも遠い国の話になってしまった感があるが、それでも受講者の中には休み時間を利用して携帯サイトのチェックを行っている者がおり、途中経過の報は入っていた。73分を経過して1-1。ホームで、しかも、(誠に遺憾ながら)残留争いの直接ライバルであるヴェルディ相手にドローは痛い。祈るような思いでテストを続けていたが、結果はドロー。筆記試験の出来が思ったより芳しくなかったこともあって、その日の夜は一気にブルーになってしまった。
 それにしても大分は強い。5-0。他岸の火事のように見ていたチームが知らぬ間に新潟より順位が上に(涙)。これほどまでに指揮官交代が劇的に働いたケースを知らない。J2と違い、J1というカテゴリーでは一部のチームをのぞいて実力に差はほとんどないというのが、これまで戦ってきた中で感じたことの一つだ。楽な戦いなど一つもない。一つ歯車が合えば、連勝もあり得るし、何か一つでもズレが生じると我がチームのようにズルズルと連敗もある。Jリーグの監督資格でもあるS級になると、そんなチームの立て直し方、モチベーションのあげ方まで(ついでに言うと選手のしかり方まで)要求されることになるのだが、そんな机上の論理とは違い、現実はさぞかし厳しいものに違いない。指揮官を含めたスタッフ同士の知力の戦いという意味でも、Jの舞台はやはり最高峰だ。

 ということで、肝心の試合だが、試合終了から30時間経過した日曜の夜にようやく自宅リビングでビデオ観戦ということになった。結果のわかる試合をビデオで見ても全くモチベーションがあがらないのが正直なところなので、簡単に振り返る程度でご容赦願いたい。
 
 まず、誰もが驚いたであろう開始早々のPKだ。監督会見にもあったとおり(普段は影響を受けると嫌なので見ずに執筆しているが今回は拝見しました)、萩村は素晴らしいパフォーマンスでワシントンを封じていたと思うが、事故のようなPK宣告だった。あの温厚な萩村が掴みかからんばかりの勢いで抗議し、チームメイトに体を押さえられていたのも分かるぐらい不幸であった。確かに手が体にかかっていたかもしれないが、ワシントンはクロスに対して明らかにオーバーパシュートしており、こればっかりは主審の立ち位置に問題があったような気がする。
 いずれにせよ、早朝バズーカで起こされたようなオープニングで、選手、スタンドとも火がついたのか、いやいや、普通に十日町強化キャンプの成果であろうが、中断前とは見違えるようなアグレッシブさで、攻め立てていたのには感激した。休養あけのファビーニョが素晴らしいのはもはや定説であるが、キレキレの高速ドリブルで敵陣奥深くまで切り込む。エジミウソンも運動量豊富でシュートの意識も高い。相馬対策で右に配置した梅山も相変わらずの高パフォーマンス。なによりチーム全体にガッツが、気力があふれている。
 前段でも述べたように、ホームで勝ちきれなかったのは残念であるが、このパフォーマンスならサポーターもあまり文句を言えないはずだ(現場にいなかったので試合終了後のリアクションがどうだったかは分からない)。本当に、久しぶりに新潟らしい戦いが見えた気がする。夏の中断あけのガンバ戦後にも同じことを書いたような気がするが、さすがに準備期間を与えられると、優秀な監督は見事に立て直してくる。次節は、今シーズン不振とはいえ、王者横浜。タフな相手であるが、先の中断期間を契機にラスト7試合、一気に上昇モードに向かっていって欲しい。文字通り今シーズンを占う大事な試合になりそうだが、そんな期待を持たせる「勝ち点1」であった。

 以下はおまけ。
 監督会見では珍しく、個人選手の評価に対してもあからさまに(つまり欠点まで)言及していた。具体的には青野と本間の評価であるのだが、これを見ると、新潟でのボランチは攻守にわたってスピーディなプレー、判断を要求されていることが分かる。死語であるが一発のキラーパスを通すゲームメイカーよりも、リスクマネージメントを含めた判断の速さ、攻守の切り替えの速さに優れた選手が監督の好みのようだ。これをみると、ヨンハがボランチとして使われなかった理由も分かる気がする(ヨンハの個人的資質ではなく、あくまでも戦術上の理由だったという意味で)。
 また、本間を持ち上げ、青野を批判している点に関しては、本間に対する絶大なる信頼が見いだせると共に、青野に対しては、しかっても大丈夫、しかればそれをバネに伸びる選手という狙いがあるのだろう。S級ライセンスというのは、みなさんが思っている以上に難易度の高く、そしてあらゆる意味で「深い」スペシャルなライセンスなのだ。
 もう1点。ここ2週間ばかり、ジュニアやジュニアユースの子供達のプレービデオばかりみていたので、Jリーガーの技術の高さ、スピードに改めて驚いた次第。そういった意味でも、有意義な講習会でした。

2005年10月17日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。