2005.10.24 ニイガタソウル

 新潟県中越地方を突如襲ったあの大震災からちょうど1年。僕もおよそ10年ほど前に大地震を経験、被災し、避難生活を強いられたことのある1人なので、少しは被災者の気持ちも分かるつもりだ。ここに、改めて犠牲となられた皆様に謹んで哀悼の意を表するとともに、被災地域の1日も早い復興を心からお祈りしたい。

 さて、そんな事情を知ってか知らずか、当日は午後から涙のような冷たい雨が降り出し、キックオフ直前にはそれが豪雨に近いレベルまで上がっていくなど早くも冬の始まりを思い起こさせる最悪なコンディション。ここ最近、新潟の調子に合わせるように、週末の度に天気は悪くなっている。
 しかし、そんな悪い雰囲気を一掃したのは、新潟のスポンサー企業の一つであるローソンの「あの人」のマイクパフォーマンスであった。当然、僕は名前はもとより、その人をよく存じ上げているのだが、「ローソンのあの人熱いよね~」と方々で聞かれることから、ここは「あの人」としてキャラを独立させたい(笑)。ま、そんな冗談はさておき、「あの人」のマイクパフォーマンスは今年も熱かった。豪雨の中、マイクを握ると、無骨ながらも、新潟、そしてアルビレックスに対する熱い思いを一気にぶちまける。

 スポンサーによるサンクスデーの企画というのは聞いた話によると新潟独自のものらしい。少なくともほぼ毎試合行うという意味では。クラブの営業部をはじめ、広告代理店、そしてスポンサー企業も楽しいながらも、非常に頭を痛めるタスクだろうが、僕らにとっては、同じくクラブを支え合う者同士が顔を合わせる(結びつく)貴重な場として大変ありがたく思っている。
 新潟のように大きな資金源、いわゆる親企業を持たないチームにとっては、スポンサーは一方通行で金だけ与えていくものではなく、ともにチームを支え合う仲間として、精神面での結びつきも求められてしまいがちだ。そういう意味で、新潟のサポーターは厳しく、本物を見抜く力を持ち合わせていると言えるが、半面、仲間と認めればとことんついていって、忠誠を誓う。思い起こせば、印象に残っているサンクスデーの後の試合というのは、名勝負が多いのではないだろうか。パッと思いつくだけでも昨年の鹿島戦、そして、記憶に新しい5月4日の川崎戦。クラブを支え合う両輪、サポーターとスポンサーの意志が一つになれば、ちょっとしたケミストリー(化学変化)を起こすことも可能となる。

「魂とはニイガタとアルビがいとおしく思い合う『意志』のことです」

 「あの人」はこう言った。当日配られたステッカーにもプリントされていた魂(ニイガタソウル)が、スタジアムに宿った瞬間だった。相手は今シーズン不調とはいえ、2年連続のJリーグチャンピオンの横浜である。厳しい戦いが予想されるが、彼らが相手するのは、ピッチ上の選手だけでない、およそ4万人のニイガタソウルが相手だ。スタジアムをよく見れば、一頃の大学のキャンパスを彷彿させるようなおどろおどろしいメッセージのダンマクが張り巡らされ、ゲバ文字が踊っている。なんだか凄い雰囲気になってきた(笑)
果たして、試合は、思った通りのニイガタソウル連発の熱い試合となったのである。

 新潟は狙いがはっきりしていた。まず守備ありきで、とにかく守る。チャンピオンチーム相手に先制されることは死を意味する。サッカーの基本を思い出し、1人1人がシュートコースを消し、体を張ってでも守る。そして、ゼロに抑えていれば必ず到来するであろうチャンスを(たとえその回数がわずかであっても)ねばり強く待つ。
 試合は序盤から完全な横浜ペースで、一方的にボールを支配されたが、最後の場面で体を張って守り、決定的なシーンをなかなか作らせない。前半を同点でしのげれば上出来だ。そう考え始めるや否や、こちらの声が聞こえたかのようにリマ-エジミウソンの見事なワンツー2連発で、あの横浜の強力な最終ラインを突破。先制ゴールをあげてしまった。ニイガタソウル、マックス値の80%まで上昇。

 前半も面白かったが、後半はもっと凄かった。この試合はNHKで全国中継されていたが、テレビを見ている誰もが後半のポイントは分かったであろう。攻める横浜。守りきれるか新潟。前半に輪を掛けたような横浜の猛攻撃が始まる。
 サッカーの試合は1-0が一番面白いという人が多い。サッカーというスポーツはなかなか点が入らない。攻める方も守る方も1点の重みを思い知らされる試合。それが1-0のゲームだ。この試合は、まさにそんな1-0ゲームの醍醐味が存分に味わえた試合だったのではないだろうか。
これだけボールを持ち、両サイドからのクロスだけでなく、コーナーキックも上げ放題だった横浜だが、なかなか点が入らない。新潟の選手の最後の場面での守り、集中力が凄く、感動的ですらあった。横浜は大島、山瀬を投入し、さらに攻撃姿勢を高めるが、大島のヘッドという横浜の決定的シーンも木寺が素晴らしい反応ではじき出す。この瞬間、ニイガタソウルは100%まで上昇していた。
僕はなにげに後ろを振り返った。この1-0の緊迫感。押されっぱなしの展開なのに、みんな笑顔だ。そう、この試合は誰も否定することも出来ないぐらい面白いのだ。スタジアムは本当に一体となっていた。この感動はいつ以来だろう。直樹に代えて、ルーキーの藤井が投入されたあたりからはニイガタソウルは120%を超え、一層、壁となって、横浜の前に立ちふさがっていったに違いない。

試合終了を告げるホイッスルの直後から、Pride Of Niigataの歌声がスタジアムに響いていた。色んなチャントが流れるスタジアムだが、これほどまでに迫力があり、また、この場に相応しいメロディなかった。横浜のサポーター以外が全員口ずさんでいたのではないかと思うほどの迫力であった。
 Pride Of Niigatanoの合唱がやみそうにもない中、メインスタンド前ではエジミウソンがテレビのインタビューに答えている。そういえば、昨年の来日当初、本当にこいつで大丈夫か?と心配し、コッパ・エジミウソンなんていうイベントもやったりしたよなぁ。それすら懐かしい。そんな、彼も、今では体に立派なニイガタソウルが流れているのだから。

2005年10月24日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。