2005.11.14 新潟よどこへ行く

 11月も中旬に入ると、僕の住んでいる新潟市内もとたんに冬めいてくる。県外の人にこういうと驚かれるが、新潟市内というのは実は真冬でも雪はあまり積もらない。その代わりといっちゃなんだが、冷たい北風と、雨に悩まされることになる。そして、天気がめまぐるしく変わり出す。マスコミの皆様においては、今日から新潟を日本のロンドンと評してくれるとありがたい(笑)。プロチームは一つしかないけれど。
 そんな冗談はさておき、天候が心配された柏戦だが、前日の雨、強風が嘘のように上がり、開門時には見事な青空が広がった。およそ3週間ぶりのホームゲーム。チケットもsold outと前夜に聞いていたが、なるほどよく入っている(川淵キャプテンまで入っていたのはご愛敬)。今シーズンを決する運命の1戦。舞台は整ったと言って良いだろう。

 キックオフ直後から新潟は良い出足を見せる。川崎戦を底として、十日町キャンプ以来、確実にチーム力は上がっているのは間違いない。一方の柏は、メンツをみればそれなりに豪華だが、この順位にいるのがやはり頷けるほど出来はよくない。玉田のスピード、やたらでかいクレーベルのメガトンシュートなどの怖さはあるが、攻撃も単発で、点を取られる気配はあまりない。また、波戸のCBも、ボール回しなどから判断するに急造の感は否めず、非常に危なかしい(苦笑)。
 良い流れのうちに点をとっておきたかったとことであるが、エジミウソンがイエローカードをもらったあたりから様子がおかしくなった。エジミウソンをかばう形になるが、主審、あなたプレーに全くついていけてませんでしたから!裏に抜けたエジのプレーはちょっと怪しかったが、ここで笛を吹けなかったのを、エリア内のファールを流すことでチャラにした感じ。流されたエジはそりゃ怒る。だって、主審はセンターサークルにいたのに、ゴール前の接触プレーをどうして見ることが出来たんだ?
 この判定で主審も舞い上がったのか、少しおかしな判定が続く。明らかにいらつき始めるエジミウソン。気ばかりが焦り、1人前へ前へ。そこを百戦錬磨の柏ディフェンダー薩川が巧みについてくる。ボールのないところでも明らかに挑発。この日の流れからいってエジミウソンの退場も時間の問題か、と思いはじめたところで、柏がポカをやってくれた。リマのCKに対し、エジミウソンは全くのフリーで飛び込み、豪快に先制ゴールを突き刺したのである。1-0。この日の柏の出来からいっても、このゴールで早くも勝利を確信したが、それはとんでもなかった。

 両チームとも勝ち点3を奪いにいった決戦は、新潟が突き放すも、その度に追いつかれ、2-2のドローで終わった。2点はとられたものの、崩された形での失点ではなく(逆に言えば防いで欲しかったのだが)、守備陣は安定を維持。どうしても勝ちたかった柏に対し、新潟は(残留争いの)直接ライバルに勝ち点3をプレゼントせず、確実に1をゲットしたところで評価は出来る。まるで、右打ちの進塁打を放ち、興奮した実況アナに「最低限の仕事はしました!!」と連呼される中途半端なバッターの様だが、僕がざっと見た限りこんなところが一般の試合評だろうか。
 この日は、川淵キャプテンのほかに、久しぶりに新潟に戻ってきた某衛星チャンネルのアナウンサー、また石川からの視察団と、僕が知る限りでも沢山のビジターが、新潟の、そしてスタジアムの熱狂を見に訪れていた。両チームの現在の状況、得点経過からみれば熱戦と評価されてしかるべき一戦。皆さんは、胸を張ってこの試合を誇ることが出来ただろうか。3週間心待ちにしたホームゲームを期待通りに楽しめただろうか。

 今日は辛口になることをご容赦願いたい。もちろん、サッカーの見方は千差万別で正解などないので、賛同もしてもらうこともないし、逆にこんな考え方の奴もいるんだなぁ、と軽く流してもらえるとありがたい。

 新潟の試合はいつからこんなにつまらなくなったのだろう。僕が熱狂した新潟のサッカーはもっと攻撃的で、スピード感に溢れていた。確かに、相手にチャンスらしいチャンスは作らせなかったかもしれない。しかし、(柏の)4人に対し、8人で守っていれば当然だろう。J2時代、スタジアムを熱狂の渦に巻き込んだ寺川、慎吾の両アタッカーは守備的なプレーを要求される。最終ラインからはボランチの頭を越えたロングボールが、ひたすらエジミウソンめがけて放り込まれる。ブラジル人3人のイマジネーション、得点力にかけるが、中盤の押し上げがないため、厚みのある攻撃はできない。 そして、守備にも追われるファビーニョは後半になるとさすがに息切れしだす。
 この日生まれた計4ゴールのうち、唯一美しかったゴールは、スペースに出されたボールをトップスピードで前線に運んだ慎吾からの低く、速いクロスから生まれた。新潟のサポーターは慎吾の武器、持ち味が何であるかを知っている。足下でボールを受けた状態で、DFと対峙しては彼の魅力は半減する。運動量とスピード、そして正確なクロスが彼の武器であるからして、彼には前方のスペースと、高い位置でのプレーが必要なのだ。それを知っているからこそ、スタジアムは大歓声で応えたし、スタジアムに人は集まってきた。

 J1残留は、サポーター以上にクラブ、現場の至上命令だろう。もちろん僕らとしても、来年以降もハイレベルな舞台に身を置きたい。でも、贅沢な悩みかもしれないが、僕らはこの試合を本当に楽しみにしていた。両チームとも勝ち点3を目指す、アグレッシブな戦い。カウンターの応酬で幾度となくスタジアムに歓声と絶叫が響く。選手もサポーターも、試合後立てなくなるぐらいの疲労。それが絶対見れると思ったからこそ、チケットも完売したのだ。これは結果論で言うのではない。少なくとも、僕的には壮絶な撃ち合いに挑み、結果として2-3で負けたとしても、こういう試合ならきっと満足であっただろう。大きな拍手を送ったに違いない。

 新潟の観客動員が飛躍的に増加したのは、単にスタジアム効果があっただけではない。見に来てくれるお客さんが虜になるぐらいのスペクタルなサッカーを演じていたからだ。スタジアム元年の京都戦2試合を思い出してほしい。先週のコラムで僕はこう書いた。サッカーが面白いのはそこにドラマがあるからだ。確かに、今週、ライバルチームがこけたこともあり、J1残留にはぐっと近づいたかもしれない。でも、この試合落としたとしても、最後にはそれを取り返すぐらいのエンディングが待っているのだ。こんな中途半端なシナリオでは、なんの感動も生まない。
 現在、U-8の子供を見ていることは以前にも書いた。全員が最後まであきらめずにボールを追いかけ、ひたむきにゴールを目指す、彼らの試合の方がよほど面白く感じてしまうのは、ある意味とても悲しい。

2005年11月14日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。