2005.12.05 ラストメッセージ

 再来年にも秋開幕へとサッカーカレンダーが修正されるとの噂も耳にするが、それについてしみじみ考えさせられる試合でもあった。試合前日、浦和の関係者と話す機会があり、厳寒時における試合観戦の心構えを説いたつもりであったが、今では反省している。認識が甘かった。
 午前中のあの太陽はどこに行ったのであろう、雨に濡れた体を、冷たく湿った北風が容赦なく締めあげる。なんなんだこの寒さは。まるで時代遅れのシングルリフトに揺られている気分だったが、試合内容も新潟にとって負けず劣らずお寒いものだった。新潟の2005シーズンはこうして終わりを告げた。

 反町監督をはじめ、木寺、桑原、リマというレギュラークラスの選手達の今シーズン限りの退団が発表された直後のゲーム。新潟にとっては、今季最終戦であると共に、彼らに別れを告げなくてはならないセンチメンタルなゲームであったが、相手の浦和にとっては、優勝がかかる大一番で、選手もサポーターもモチベーションという点で明らかに上回っていたのは否めないだろう。ある意味シーズンを終えた新潟と、シーズンのクライマックスを迎えた浦和の差。キックオフ直後の早い時間にややアンラッキーな形で先制されると、その目が覚めぬままに2点目を献上。感傷に浸る間もなく、あっという間にゲームへの興味を失わされた。
 浦和のサッカーは、良くも悪くも非常にオーソドックス。エメルソン、田中達也不在の彼らは、マリッチのポストを起点に、イマジネーションこそやや欠けるものの、左右にバランス良くボールを散らして圧力をかけて攻めてくる。対する新潟の攻めは、浦和の速いチェックに最終ラインからのくさびのボールもなかなか入らない(菊地の欠場が痛かった)。ならば、サイドで起点を作りたいところだが、そこでも数的優位を作られ、きっちりとボールの出所を押さえられてしまった。手の打ちようのない前半。新潟はボールはもちろん、ゲームを全く支配できない。
 後半、優作を入れると前線がかなり活性化され、ようやくゴール前に迫れるようになったが、肝心な3点目を浦和に奪われ、ジ・エンド。浦和にはどうも分が悪いのか、この試合も完膚無きままに叩きつぶされてしまった。

 気温も寒かったが、やっているサッカーも寒かった。僕の友人は試合後、バックスタンドで、ただ一人「全員やめちまえ?」の怒声を発していたらしいが、彼がそういう態度に出るのも否定できない。久しぶりに、朝5時に(試合前の興奮のため)目覚めてしまったという彼だけでなく、もちろん僕もこの試合を楽しみにしていた1人だ。チームに多大なる貢献した数名の選手のラストゲームというセンチメンタルな部分だけでなく、ホームの最終戦として、そしてどうもピリっとしなかった2005シーズンの集大成として、いきり立つ浦和を返り討ちにするぐらいのパフォーマンスを期待していたのは当然。ところが、ふたを開けてみれば、全くの力負け。今日の試合だけ見れば、数名を入れ替えればすむという問題ではなさそうに見える。
 でも、こういう試合もやはり最終戦に相応しいのだ。プロ選手といえど、やはりスポーツはメンタルな部分が大きい。J1残留という最低限の目標を果たし、来期に向けての契約の話も出ている中、勝利しても何のプレミアもつかないこの試合に集中せよとは、口では言えても、モチベーションという点に関し、浦和に大きく劣ったのはある意味致し方ないのであろう。

 反町監督は、自分の使命は終えたとして退任の理由を話した。その貢献度を含め、突出したカリスマ性から反町監督を惜しむ声は多い。しかし、そんな未練を断たせるかのような、あたかも自身の退任の理由を知ってくれとでも言うような決定的な負け方だった。もちろん、これは皮肉で言っているのではないし、反町監督に対する評価は変わることはないが、反町新潟時代の終わりを告げる象徴的な試合だったと言えよう。来年からは、また新たなチームとともに、新たな歴史を創って行かなくてはならない。この日、スタジアムを訪れたサポーター、いやクラブフロントに対しても、強烈に突きつけられたメッセージではなかっただろうか。

 この試合を最後に多くの選手が新潟のユニホームを脱ぐことになった。退団する各選手に対し、僕なりに思い出がいっぱいだが、今日はとりあえず、アンデルソン・リマについて簡単に触れたい。
 試合前日のリマの会見には、心打たれるものがあった。サポーターズCDの絡みで、少しはその優れた人格に触れたつもりだったが、それ以上に人間として、プロ選手として得難い好人物であったことに気づかされた。通訳の渡辺基治君が心酔しているのもわかる。
 センターラインが弱いというチーム事情から、その実力を100%生かせたとはとうてい言い難かったアルビレックス新潟のアンデルソン・リマであったが、その素晴らしいキック技術といい、間違いなく新潟の歴史、いや新潟サポーターの記憶に残る選手である。リマという選手に会えただけでも、この1年は歴史的に見て価値あるものだったかもしれない。
ありがとう、アンデルソン・リマ。そして、ごめん。

2005年12月5日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。