2006.10.30 3年目

 インドで行われているアジアユース1次リーグ初戦で河原がやってくれた。目の覚めるような先制ミドルシュートに加えて、「先にシャワー浴びてこいよ」と言ったのかどうかわからないが、ロベルト・バッジオ風のファンタジックなアシストパスまで決める。いくら年齢制限付きとはいえ、サムライブルーに袖を通すことが許される「代表」に新潟の選手が二人名を連ね、しかも両者とも主力として活躍しているのだから、誇りに思わずにはいられない。河原もアトム(田中)も、クラブハウスの敷地内に建つあの選手寮の住人だ。あそこから、今、世界に向けてはばたいているわけなのだが、寮生にとってはこれ以上ない刺激である一方、なにか微笑ましい違和感を感じてしまうのは僕だけではあるまい。これからも、みんなの力で造ったあの選手寮から多くの選手が世界に向けて羽ばたきますように。

 と、いきなりアジアユースの明るいニュースに救いを求めたのは、この快挙が土曜のゲームで憂鬱した不満を多少なりとも吹き飛ばしてくれたからに違いない。10月終わりの絵に描いたような素晴らしい秋晴れ。今年の新潟は違う、と唸らされたのは残念ながら天気だけだった。

 このところの連勝でJ1残留をほぼ確実なものにしている新潟に対し、福岡は3チームによる激しい残留争いの真っ最中。この3年間で、J1にいることの大切さを多少なりとも知った我々であるからして、彼らの置かれている立場に自分たちを置き換えてみると、選手でなくても身が震えるような思いがしてくる。モチベーションの差。言葉で表すとあまりにも安易だが、勝利の執着心という点に関して大いに劣ったことは否めまい。

 J2時代、何度となく顔を合わせた福岡であるが、試合結果とは逆に、新潟のこの数年間での着実なチーム強化が感じられた試合でもある。ワントップに入る貴章には二人のマークが付いたが、貴章の高い身体能力の前にまともに止めることができず(笛の吹かれなかったファールも多かった)、ズルズルとラインが下げられる。中盤では寺川がボールを拾い、シルビーニョとともにフィールドを制圧する。最終ラインでは、U-21代表のCB千葉が、完全に一皮むけた出足の鋭さで攻撃をはじき返す。しかし、こういった余裕が慢心を生んだのか。いや、慢心をうたうほど我々は強くも上手くもなかった。選手も今一歩ピリっとしないというか、キレがない。福岡の体を張ったディフェンスにパスはことごとく寸断され、ミドルシュートも大きく枠を外す。決定機と呼べるチャンスすらまともに生み出せず前半を終了したのである。ハーフタイムに知り合いと話をする。不完全燃焼の前半。それでも、負けはしないだろうという油断。ただ、かつて辛酸をなめさせられた古賀。やはり彼は怖いね。果たして、この嫌な予感は的中する。

 後半15分過ぎに、福岡のカウンターから、その恐れていた古賀にここしかないところに決められた。0-1。よし、これでゲームが動く。こんなことを考えた呑気なサポーターがいるから選手にも伝播するのだ(そして、それは俺だ)。1点のビハインドを負い、反撃に出る新潟。しかし、その攻撃は前半とあまり変わることはなかった。技術的に優位に立つ余裕と、ゲームを丁寧に作るという今シーズンの意識がそうさせるのか、結果論になってしまうが、そんな形にこだわりすぎた故に、いぜん実効的なアタックは繰り広げられず、代わりに38,000人の観客に苛立ちを与えた。福岡は、ピッチに倒れ込む選手が続出するぐらい体を張った。時間稼ぎだろうが、汚いファールだろうが、求めるものは勝ち点3。良いサッカーだったなどの美辞麗句はいらない。かつて、新潟もなりふり構わず追い求めたリアリズムがそこにあった。エジミウソン、そして終了間際に中原を投入し、ようやく装飾を省いたパワーゲームに出る。このパワーゲームは効果的だった。それだけに、もう少し仕掛けが、本気になるのが早ければ。。。もっとも、だからこそサッカーは試合のない日も永遠に語れる競技なのであるが。

 まだJ1昇格を目指していた頃、J1の中位チームのモチベーションについて思いを巡らせたことがある。優勝を目指す高揚感も、降格の恐怖もない。中位チームのサポーターは一体何を楽しみに、シーズンを追うのだろう。そんな心配は杞憂だった。順位など関係がない。自分たちのチームの戦いを見つめるのに、順位ボードが一体どれだけ影響を及ぼすというのか。上手い! と毎試合唸らされるシルビーニョのボールテクニックを間近で見るのは何より気分の高揚に繋がるし、自分たちが目をかけてきた選手の成長っぷりに目を細めるのも楽しい。しかし、だ。それはそれ、これはこれ。勝利への執着心という点で、相手にこれほど差がつけられたゲームを見せつけられると、ましてやホームゲームでこれを見せつけられるとやはりもどかしいのだ。鬱憤がたまるのだ。そこまで人として達観できていないのだ。J1チームとして3年目を過ごしただけで、すっかりJ1気取りか。

 アジアユース帰りの河原やアトム。さらには千葉のブレイクぶりに心をときめかすのも悪くない。しかし、シーズンはまだまだ残っている。今日も新潟市内は爽やかな秋晴れだ。寒ブリをつまみに、安穏と来期の夢を語るようなストーブリーグにはまだ早いのだ。

2006年10月30日 13時40分 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。