2007.03.13 第2回「一流と二流の分岐点」

 あなたはメンタルが強い方ですか?と、聞かれて胸を張って「イエス」と答えられる人はどれだけいるだろう。心技体という言葉がある。日本特有のものかどうかは分からないが、最近になってその言葉の意味、とりわけ「心」の意味を反芻している。

 一流のスポーツ選手が、この心技体を兼ね備えているのは間違いない。逆に言うと、「心」の弱い人間はトップレベルに立てない。サッカーでいう「心」には、逆境にへこたれない精神力、目的のために自分を律する強い心、自己犠牲の精神、そして、創意工夫などがあげられるだろう。レギュラーを外されたぐらいで腐っては駄目だし、自分で目標を定め、それに向かって努力するマネージメント能力も必要。また、サッカーはチームスポーツであるからして、自分さえよければよい、という考えはチームにマイナスの作用を及ぼすし、失敗してもそこから学べない、学ぼうとしないのならば成長は見込めない。アマチュアでも、とんでもない才能を持った選手がいると思うが、それでも彼らはプロになれていない。高校サッカー(野球)のスターがプロに入って消えていく。あるステージまでは才能が全てを凌駕するだろう。中には、最初から最後まで、その驚異的な才能で突っ走ることが出来る選手もいるだろうが、それは稀だ。
 ということで、改めてプロになった選手というのは凄いと思うし、さらに、この厳しい生存競争の中、何年もプロ生活を続けている選手にはリスペクトせざるを得ない。新潟にも尊敬できる真のプロが二人いるではないか。寺川と慎吾。ともに、よそのクラブの戦力外を経て、当時J2だった新潟に入団。そこから、度重なるレギュラー争いに勝ち残り、チームと共にステップアップしてきた選手だ。寺川なんて、プロ生活15年目。よく犬の歳を人間に直すと・・、というのがあるが、寺川のキャリアをプロ野球選手のそれに換算すると、既に45歳で引退した野村克也に匹敵するという調査結果が出た(浅妻経済研究所調べ)。いや、本当に寺川は凄いと思う。Jの中でも過小評価されている選手の1人だと思うね。

 ということで、そんな寺川がいぶし銀の活躍を見せた浦和レッズ戦を振り返ってみよう。ここはどこ?私は誰?と思うほど白銀の世界に包まれた試合であり、そんな猛吹雪の向こうで顔をしかめる寺川の表情を見て、「修行僧?」と聞いたうちの妻もどうかと思うが、試合のポイントはそんなことではない。その日の朝、自宅でエル・クラシコにおける、メッシー(バルセロナ)のロスタイム同点弾を見て感激した僕であるが、まさか、その数時間後、新潟でも同じ光景が見られるとは思っていなかった。両試合ともプロの強いメンタルが感じられた熱い試合ではなかったか。
 ホームとはいえ0?2の劣勢。効果的なアタックも出来ず、どう見てもレッズの高い壁を崩せなさそうだったが、この流れを一瞬で変えたのが河原である。内田がセンタリングをあげる直前、マークしていた山田の背後に回って視界から姿を消し、そこから一気に、ディフェンスの前に飛び出す。ピンポイントで入ってくるクロス。まさに、僕が今、子供達に教えている動きじゃないか。偶然にも今日は、集団で観戦しに来ているはず。ちゃんとこの動きに気づいてくれただろうか。1点差に追い上げた新潟にはホーム力が後押しをする。アトムのラインを切り裂くダイアゴナルランに反応したマルシオのチップキック(偶然にもこれも前日練習していた)が宙を舞う。その数秒はストップモーションだった。ワンチャンスをモノにしたビューティフルゴール。勝ったわけではないが、長い冬に耐えた後に突如として訪れた真夏のような歓喜であった。

 最初の話に戻る。人の話を聞けず集中が欠ける、自分の好きな練習以外は手を抜く、という子供は試合には使いづらいという話を聞く。そんな彼らは得てして諦めが早いそうだ。先ほどの僕の理論でいえば、どの分野でも一流になれないということになる。あのフィールドの中にいた選手の中に、諦めていた選手というのは皆無だっただろう。慎吾もいっているではないか。1%の可能性がある限り、100%の努力をする。だから、あの結果が出せた。だから、僕たちをあんなに感動させてくれた。果たして、皆さんは同点を信じていましたか?そして、僕の教え子達が、試合終了前に席を立っていなかったかとても心配になる今日この頃だ(笑)

2007年3月13日 19時28分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。