2007.03.20 第3回「サイドバックからサッカーを眺める 前編」

 鈴木監督就任以降、新潟は一貫して4バックシステムを採用している。ここまで3試合を消化したが、バックラインのメンバーは固定。すなわち、永田、千代反田のセンターバックを中心に、左右に坂本、内田を配置する布陣である。
 中盤をボックスタイプにして、人もボールも動くサッカーを目指す新潟であるが、ボール回しや、スペースの利用という点でサイドバックの果たす役割は大きい。そもそも、4バックはサイドバックのあり方次第でいかようにも味付けされるのだ。そこで今日は、ジャミネイロ所属のなんちゃってサイドバックである私が、大胆にもサイドバックを解説し、そこからサッカーを眺めることを試みたい。

 いきなりであるが、サイドバックは悲劇である。ジュニアの試合で笛を吹いていると、サイドバックの選手はベンチから集中攻撃を受けていることが多い。これは、単純にベンチの目の前でプレーすることが多いという物理的要因に起因しているだろう。「戻れ」だの「行け」だの、「どっちやねん」というツッコミを待っているかのような身勝手さである。これでは子供がサイドバック嫌いになってしまうではないか。
 もっとも、大人の世界でも似たようなもので、センターバックやボランチからはカバーリングについての要求が厳しいし、いったん攻めに転じれば、前線の選手からはサポートの遅さを指摘されがち。極端な例だけを取り上げた感は否めないが、これを見ても、サイドバックは使われるプレーヤーの典型ということが分かるだろう。
 しかし、前段に書いたとおり、サイドバック次第で4バックはいかようにも味付けされる。そして、この多様性こそが4バックシステムの最大の魅力と考える。
 例えば、反町時代の4バック。反町サッカーといえば、スピード。横をあまり使うことなく、縦に激しく戦うサッカーであった。守備時には自陣で3ラインを引いてスペースを与えない。特に、昨年の新潟が散々突かれたサイドバックのスペースを空けることは御法度である。3ラインでスペースを消し、自陣でボールを奪うと、攻撃はいきなりトップギアに入る。最優先はダイレクトプレー(※ゴールへ直結する最短のプレーを選択するという意味)。相手背後の広大なスペースの利用がキーで、手数をかけずに、少ないタッチでゴールを目指していくのは見た目以上に高度な技術、かつ戦略なのだが、とにかくそういう戦い方をすることが多かった。サイドバックとして、対人守備に優れたヨンハ。オーバーラップよりも、速攻の起点となるロングキックの蹴れる松尾や三田が重用されていたのもそういう理由がある。こういう言い方をすると、両方のファンに怒られそうだが、キック&ラッシュのプレミアリーグに近い戦い方だ。

 これに対して鈴木サッカーはどうだろうか。前線からのアグレッシブな守備は共通で、ダイレクトプレーも狙えるときは狙うが、それよりも確実性を重視しているようである。特に、自陣では可能性の低いボールは蹴らず、マイボールを大事にする。すなわち、ポゼッションである。
 ポゼッションをするにはボールを繋げなくてはならない。ボールだけでなく、サイドバックも含めて人が動き、パスコースを創出する必要がある。つまり、ピッチをワイドに使い、相手を揺さぶり、DFラインの穴(サッカー用語で言うギャップ)を探すことがこの戦術のキーになる。サイドバックも積極的に攻撃にからむため、文字通り攻撃的であるが、選手の動きが流動的な分だけリスクもある。ディフェンス時にはラインを閉じて、カバーリングを多用することになるのだが、この際に、どうしてもギャップも生じやすいのだ。そして、相手は当然そこを狙う!
 ここで、懸命な読者諸君ならもうお分かりであろう。ジャミネイロはこちらの4バックシステムを採用している。さっきまで攻撃参加していた僕が、カウンターを食らうや否や、ボランチやセンターバックの皆さんに半ギレで怒鳴られるのは、これが原因だ。昨シーズンの新潟は、サイド攻撃からの守備を課題に上げられていたが、ボールを保持して相手のギャップを狙うサッカーは当然自分たちのギャップも生じやすい。ハイリスク・ハイリターンと開き直ればそれまでだが、事実、チーム戦術もあまり理解せずに、馬○の一つ覚えのようにそれだけ指摘されては、現場もさすがにうんざりなのでは。そんなことを、アルビマガジンの方に寄稿させてもらったりしたが、それはこういう攻撃的な4バックシステムを採用するチームのディフェンダー陣を代表した、僕なりの言い訳であったことは否定しない(笑)。ジーコジャパンにおいて、サントスの守備が集中非難を浴びていたが、彼のストロングポイントはそんなところではないし、それを指摘するなら、超攻撃的なサイドバックをチーム戦術に据えたジーコを批判しなくてはならないのは言うまでもないだろう。

2007年3月20日 18時56分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。