2007.03.27 第4回「サイドバックからサッカーを眺める 後編」

 ということで、鈴木サッカーにおいて求められるサイドバック像も見えてくるだろう。ディフェンス能力は言うまでもなく、ボールを繋ぐ能力、上下のアップダウンをいとわない運動量、そしてバランス能力。そんな中、昨シーズンのディフェンス崩壊を受けて、シーズンオフに獲得したのが、千代反田、そして坂本であった。
 まだ序盤だが、坂本加入の効果は十分に見られている。今シーズン、サイドバックの位置が随分上がっているように思えるが、それは単純に中盤でボールがキープできているからだろう。シルビーニョの調子がまだ上がってきていないが、それでも深井や坂本、マルシオを中心とした新加入選手の技術は高く、チーム戦術の成熟に加えて、中盤の構成力は確実に上がっていると思われる。特に坂本。本人は、「僕は運動量だけの選手ですから」と謙遜しているようだが、長年にわたって千葉で主力を張っていた実力はさすがで、それどころか、これまでの新潟にはありえなかった、サイドバックがオーバーラップしてサイドを深くえぐるシーンを度々演出している。サイドバックの選手がボールを繋げ、前に運べるのは大きい。まさに、鈴木サッカーに欠かすことの出来ない攻撃的なサイドバック選手だろう。

 もっとも、両方のサイドバックが攻撃的であれば良いのかとなるとそれは別である。なるほど、世界には両サイドバックに攻撃的な選手を配置し、左右からオーバーラップを仕掛けるチームもないわけではない。一例をあげれば、4バックの代名詞ともなっているブラジル代表(セレソン)。そして、ギャラクティコ時代のレアル・マドリーである。彼らのフォーメーションを数字で表すなら、4-2-2-2になろうか。サイドハーフにウィング的な選手をおかず、中盤は完全なボックス型で自由にポジションチェンジをし、数的優位とテクニックで中盤を制圧する。プライオリティは中央突破。サイドのスペースで待ちかまえる選手はおかず、むしろそのスペースをわざとあけて、サイドバックや中盤の選手が自由に飛び出せる形をとる。全盛時のレアル・マドリーは、余裕で中盤でボールが持てるため、ロベルト・カルロスやミチェル・サルガドの両サイドバックは、ウィングバックや、時にはウィンガーのような位置取りをして、分厚い波状攻撃を繰り返していたが、これは極めてレアなケースであろう。
 もちろん、4-2-2-2は自体は決してレアなフォーメーションではない。ジャミネイロも採用しているし、僕なんかは新潟もむしろこれに近いと思っているぐらいだ。しかし、新潟にジダンやフィーゴはいない(笑)。ということで、両サイドバックが攻撃的すぎて上がりっぱなしでは、あまりにもバランスを失する。二人のサイドバックが上がっては、両サイドのスペースはがら空きで、いとも簡単にそこを突かれてしまうからだ。両サイドバックはテコの原理で動くというのはおそらく小学生でも知っている戦術の基本である。そこで登場するのが内田だ。派手な攻撃参加も、アグレッシブなインターセプトも少ないが、攻撃的な坂本とのバランスをうまく取っている。また、長年、鹿島でプレーしていた彼はポゼッションサッカーをよく理解している。移籍当初は、チームにフィットせず苦しんでいる様子も見られたが、今シーズンは、見事な働き。リスクマネージメントも出来、だからといって、守備一辺倒ではない。

 最後に、僕が考える現在世界最高のサイドバック選手を紹介しよう。イタリア代表で、現在FCバルセロナでプレーするザンブロッタは本当に素晴らしい。左右両方こなせるユーティリティ性に加え、底なしのスタミナ。ディフェンス能力もかなり高いが、元々MFのため、攻撃も得意。彼のプレーは毎試合見ているが、本当に基礎技術が高いと感心させられる。、彼のプレーシーンがそのままサッカーの教則ビデオになるほど一つ一つのプレーが正確で、基本に忠実だ。そして、メンタルも強く、試合中に決して切れることも、手を抜くこともない。常に100%ファイトしている。
 テレビで得た情報だが、バルセロナのスポーツ紙がとったソシオ向けのアンケートでは、チームに欠かせない選手としてザンブロッタが、ロナウジーニョやエトーよりも上をいっているという。本来、脇役であるはずのサイドバック選手が、世界的なメガクラックよりも評価が高い。バルセロナ市民の、サッカーに対する造詣の深さに改めて感心するとともに、日本でもこういう時代が来ることを願わざるを得ないではないか。

2007年3月27日 12時42分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。