2007.04.10 第6回「春とはどんなものかしら」

 月並みな話題だが、季節で一番好きなのは昔から春だ。満開の桜を見るたびに日本人である喜びを噛みしめる。そして、何か新しいことが始まろうとするワクワクした気持ち、フワフワした高揚感がたまらなく好きだ。春は年に1回しかないわけだから、人生で桜の美しさに感動し、春の喜びを感じるのも残り○○回もないのか、と自分の余命に照らしてしまうのがオッサンの悲しい性だが、そんなことで春の輝きが失われるはずもない。僕的には、春は年2回ぐらいに増やしてもらっても全くかまわない。

 さて、途中でナビスコが入ったりしているので、多少混乱しているが、先日の東京戦での勝利で、リーグ戦は2勝2分1敗、勝ち点8の8位につけたようである。ここに来て2連勝であり、スポーツ紙風の見出しをつければ、「新潟開花宣言」とにでもなるのだろう。
 春といえば新生活のスタートである。毎年4月になる度に年甲斐もなく、自分の高校や大学の入学時を思い出してしまう私であるが、新潟にも多数の新入生がチームに加わっている。テレビでの観戦になるが、東京戦では、そのうちの1人である坂本の活躍が目立った。1点目は、川口のミスから生まれた形だが、外側からアプローチする坂本に対し、人のいないところ、すなわちフィールドの中央方向にトラップした川口の判断は決して誤りではない。もちろん、川口は軽率のそしりを免れないのだが、それ以上に、坂本の走りの質が高かった。川口のトラップ姿勢を確認すると、死角から一気に方向を変え、トラップミスを狙い、激しいアタックをかける。虚を突かれた川口が慌てたときには既に遅く、二つのシュートフェイクでDFをかわすと、そのままボールをネットに突き刺した。

 ちょうど試合を観戦に来ていたオシムも、コメントの中で、移籍の難しさ、その中で結果を出すことの難しさを言及し、坂本を褒め称えたようであるが、こういった新しい環境への順応が困難なのは、我々でも、実生活レベルで直面するので、頷かれる方も多いであろう。ましてや、本質がパスゲームであるサッカーは、プレーヤー相互間のコミュニケーションや、チーム戦術の理解は欠かせない。
 奇しくも、最近読んだ本で、移籍することの難しさを、しみじみと考えさせられたものがあった。数年来の知り合いであるサッカーライターの吉崎エイジーニョ氏が、自らの海外移籍を語った本がこのたび刊行されたのだが この本の中で、およそサッカー選手が直面するであろう様々なトラブルや、心の葛藤が描かれている。監督へのアピール、チームメイトとの関係樹立、ベンチウォーマーで過ごす悶々とした日々、移籍の検討等。坂本の場合、国内間での移籍ゆえ、エイジーニョが直面した、文化やコミュニケーション手段の方法に悩まされることもないのであろうが、移籍という能動的なアクションをした手前、なんらかの結果を残さなくてはならないという焦燥感、活躍して当然と見られるプレッシャーなどは当然あったはず。浦和の阿部をはじめ、我がチームの深井などもまだまだ本領発揮には至ってないが、4月の段階で、フィットするどころか、期待通り、チームの中心となっている坂本のメンタルの強さ、順応力には感嘆の声を上げざるを得ない。まさに、スーパー転校生ではないか。

 そして、新生活といえば、この人もこの春から新しいチャレンジをする人だ。
 昨年までアルビレックスに所属していた梅山修氏が、先日行われた新潟市議選において、見事上位当選(西区)。晴れて、政治家へと転身することになった。
 彼はいわゆるサッカーエリートではなかった。サッカー不毛の地(同氏談)と言われる埼玉県のある地方で育ち、高校も一般入試で入学(進学クラス)。自分でも、よくこんなに長い間プロの世界でやれたと不思議がっていたが、だからというわけではないが、プロアスリートという特殊世界にいたわりには、市民の目で物事を考えられる、バランスのとれた人だった。
 ぶっちゃけ、1月で収入が途絶えていた彼にとって、この選挙戦は経済的にも苦しい戦いだったようだ。街宣車も最低限しか用意できず、スタッフも完全ボランティアオンリーであるため、限られた戦いしかできなかった。世間的には、有名人の気まぐれだとか、当選して当然とみられた節もあったようだが、出馬に至る道のりを含め、実情はそんな甘いものではない。全ての退路を断った背水の陣。

 当選が決まったその日の夜、西区にある梅山事務所に簡単なお祝いを持って訪れてみたが、嬉しいというよりも、長い選挙戦を戦い終えた疲労と、何より安堵感に溢れた顔つきだった。新潟のために頑張ってくれ、などというような下衆な声掛けは彼には不要だろう。言葉は悪いが、ノンキャリアである彼がプロというトップに上り詰め、さらにこの厳しい世界で15年間も生き抜いてきたのだ。彼の自己管理能力や人間性を侮ってはならない。ただ春だというだけで、ワクワクするだの、フワフワするだのと言って浮かれているような僕とは出来が違うのである(笑)

 ちなみに、彼の政策理念とは何なのか。この話は長くなるから、現在、県内の書店で発売中のタウン誌に掲載している拙稿を見てくれ。僕が寄稿している雑誌は1種類しかないから、見逃さぬように(タイトルはモーツアルト風だが、〆は外山恒一風で)。

2007年4月10日 17時16分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。