2007.04.17 第7回「ディレクター・オブ・ザ・ゲーム」

 台風並みの強風と寒さという悪コンディションだったが、テレビ中継を吹っ飛ばしてスタジアムに駆けつけた33,000人にとっては、快適な映画館で、数年に一度の娯楽大作を見たかのような興奮と満足感を得ただろう。文句なしのJナンバーワンチーム相手に真っ向勝負を挑んだ絶叫の90分。貴章の決勝ゴール時のあのスタジアムの一体感。シュートフォームに入った瞬間にゴールを確信するほど、豪快で美しいドンピシャのヘディングシュートだったが、こればかりは、テレビ観戦では絶対に味わえないライブの興奮だ。今シーズンの新潟の強さがビシバシ感じられる本当に良いゲームだった。

 さて、こんな素晴らしい勝利の日があった一方で、勝利したにもかかわらず、気持ちが晴れない不思議なゲームがあった。2-1で勝利したはずのナビスコカップの甲府戦は、ガンバ戦とは逆に、スタジアム全体が不協和音に満ちていたからである。
 その一つの要因が、この日の主審であった家本政明氏にあったことは間違いない。もちろん、家本氏が試合をおかしくしたとは言っていない。以前より、熱心なサポーター間では「有名」であったが、スペシャルレフェリーであるにも関わらず、判定に一貫性を欠くという理由で、審判委員会から香港で研修を命じられた事実が皮肉にも彼の知名度を一気に全国区にしてしまった。前半は、スピーディでアグレッシブな好試合であったが、疲労から、両チームのファールが多くなってきた後半あたりから、スタンドのあちこちで嘲笑とヤジが聞こえ出す。最初に誤審ありきの先入観。こういうスタンドの偏見が、ピッチ上にも伝播したのか、はたまた選手も同じなのか、兎にも角にも試合をコントロールすべき主審が信頼を失った試合は迷走するしかない。この日の試合がつまらないと大多数の人が感じたならば、その原因を作ったのは、多数派の諸君に他ならない。

 僕も一応、3級の資格を持っているが、サッカーの審判は、皆が思うほど簡単ではない。生意気を言わせてもらえれば、ルールブックを暗記しただけではどうにもならず、プレーヤー同様、サッカーの深い理解がないと不可能である(自戒を込めて言っています)。折角の機会なので、審判に対するブーイングが起こりやすいシーンをいくつかピックアップしてみよう。

【ボールにいっているじゃないか】
 相手の足にチャージするとキッキングのファールだが、ボールへのチャージは認められる。しかし、これもボールを奪いに行くというプレーの中でこそ許されるもの。完全にボールが相手の支配下にある時に、ボールと一緒に足や体ごと払うようなチャージはファールである。
これは、ショルダーチャージでも同じ。ショルダーのチャージが許されているからといっても、あくまでも相手とのボールの奪い合いにおいてであり、過度に強いショルダーチャージで吹っ飛ばして、相手がキープしているボールを奪い取るのは、もはや別なスポーツである。

【後ろから、のしかかっているじゃないか】
 空中戦でよくみられるシーン。競るところでわざと競らないと、競った相手がバランスを崩し、大けがをする可能性があるので非常に危険なプレーである。これについては、主審の空中認知能力が問われる。すなわち、どこにボールが落ちるのかを瞬時に判断し、競り合った両者のどちらにアドバンテージがあるのかを的確に判断しなくてはならない。先に落下地点に入り、ヘディング姿勢に入っている相手にのしかかるのはもちろんファールだが、この見極めがかなり難しい。

【アドバンテージ】
 これは本当に難しい。僕自身、ファールだと思って笛を吹いたら、ボールがうまい具合に味方に転がり、絶好のチャンスを潰してしまった苦い記憶多々。アドバンテージを適用するには、サッカーのプレー同様、周囲の選手のポジショニングを頭に入れ、このまま流した方が得か、2手3手先のプレーを瞬時に読んでなくてはならない。つまり、視野が狭い、サッカーが下手な人間はこれが出来ない。アドバンテージが意図しない結果になったときは、笛を吹いて反則時点に戻せばいいが、どこまでがその反則から派生したプレーで、どこからが新しいプレーなのかその見極めが難しい。

 結局、これらをどう判断するかは全て主審の裁量である。機械のように、ここまでがOKで、ここからがファールだという客観的で、デジタルな判断は不能だ。だからこそ、判定に一貫性を持つことが要求される。そして、選手もゲームの序盤で、その審判の基準を学習しなくてはならないのだ。
 ちょうど2年前のこのコラムでも書いた気がするが、主審の重要な任務は、両チームの選手達とコミュニケートし、ゲームを作り上げていくこと。この甲府戦の話で言えば、激しさを増してきた試合展開に、早めの笛を吹いて試合をコントロールしようとしたのは分かったが、スタンドの雰囲気がそうさせたのだろう、選手もそれに乗ってしまったのか、「これもファール?」とばかりに、挑発するように同じ反則を繰り返した。主審も頑なに自分の主張を曲げず、笛を吹き鳴らした。その結果が、あのつまらない後半である。

 思うに、実社会と同じく、結局は人間性がモノをいう世界なのかもしれない。人の争いに割って入って、笛を吹くのは勇気がいることだから、チキンは出来ない。完全になめられる。逆に、権威をかさにきて、居丈高に振る舞う者は反感を買うだけだ。結局は信頼関係が全てなのだ。まぁ、そんなこと言う前に、皆さんも一度、審判の資格をとって、公式戦の笛を吹いてみてはいかがだろうか。きっと、世界が変わるはず。3級以上の資格があれば、県リーグの公式戦も吹けます。希望者はジャミネイロの帯同審判に登録しますので、我こそはと思う人は是非。jamineiro@albirex2006.comまで。

2007年4月17日 14時45分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。