2007.05.15 第11回「あなたも海外組になりたい?」

 先日、某国立大学の准教授になっている大学院時代の友人が、学会で新潟を訪れ、実に10年ぶりの再会を果たした。久しぶりにあえば、当然、同じ研究室にいた同期達の話になる。聞くと、今、法学部ではロースクールの設立により需要が増え、空前の売り手市場だという。なんでこいつが?と思うような奴が、有名大学に収まっているのをはじめ、サッカーでいう移籍市場も盛ん。さらに、僕が書いた論文テーマが、10年の月日を経て、今、注目を浴びているそうで、今も続けていればこの分野の第一人者だよ、というのはもちろんリップサービスであるにしても、なんだか悔しいではないか。この友人とも話をしたのだが、振り返ってみても大学院時代が一番人生で充実していた。みんな頑張っているんだ。色んな意味で、久しぶりに刺激を受けた夜だった。

 隣の芝は青く見えるということで、お互い、相手の今の境遇を羨ましがっている風であったが、僕にとって、研究者の魅力は、自由な生活(お前は今でも自由だろ、という突っ込みはさておき)と、海外生活にある。この友人は海外が苦手なため、当初から短期の予定でいったそうだが、それでも留学先のバークレーの快適さについて、僕に熱く語ってくれた。完璧な気候。刺激的な日々。自宅からは、ゴールデン・ゲート・ブリッジが見下ろせ、週末になると、ホームパーティが開催されたそうである。ホームパーティ!これこそ、絵に描いたような、欧米ではないか。
 欧米といえば、ワールドカップで訪れたドイツの素晴らしさも忘れられない。元々、ドイツに関しては、食事がうまくない、人が冷たいなどのネガティブなイメージを勝手に持っていたが、ちょうど奥寺康彦のドイツワールドカップ紀行なんていう番組を見てから、一気に好感度アップ(単純だ)。運試しのつもりで応募したワールドカップチケットを人生の運を使い果たしてゲット。ミュンヘン、ハンブルグ、ハイデルベルグ、ケルンなど数都市回ったが、一気にドイツ派宣言してしまうことになった。もちろん、ベストシーズンに行ったということもポイントで、冬に来たら絶対印象変わるから、と何人もの人に言われたが、とりあえず、僕が体験した世界ではパーフェクト。治安も良く、社会資本も充実。歴史的建造物と緑溢れる街中で、昼間から飲むビールの美味さ、人生の豊かさときたらたまらない。スタジアムの機能性だってしかり。見やすさと、ドイツの気候をよく考えて作られており、こんなスタジアムで毎試合見ることが出来たら幸せだろうな、と思ったものだ。

 もっとも、20歳そこそこの学生のような、悠長で、ミーハーな海外志向も、生活や仕事の保証がされている留学であったり、単なる旅行だから可能なわけで、同列に語られてはたまらない人もいるだろう。中田英寿から吉崎エイジーニョまで、欧州のピッチを目指したサッカー選手はいたが、トップレベルで戦いたいというプロアスリートの本能がそうさせているわけで、ゴールデン・ゲート・ブリッジが見えるだの、ホームパーティが開かれることなどを、移籍先の必須条件にしている者は皆無だと思われる。もちろん、会ったことはないが、ヒデからは、「だからお前は今も冴えないんだ」と、タンクトップ姿で説教されそう。あくまでも新聞報道だが、U-20代表の梅崎司が、ほとんど出場機会を得られないまま、半年でクビを切られるというのも、昨年のJリーグでのブレイクが印象的だっただけに、極めて残酷な現実を突き立てられるものだ。

 そんな中、プロアイスホッケー選手として 欧州No.1のチェコリーグで戦う坂田淳二選手と久しぶりに会う機会があった。トップリーグでの活躍と、現地での生活に完全に順応している、類い希な「成功組」である彼は、以前のコラムでも書いた記憶があるが、バリバリのサッカーファンでもある。チェコについて、若しくは、サッカーとホッケーに関する面白い話も聞けたのだが、こちらの紹介はまた別の機会に譲るとして、驚いたのは、未だに、2年前に訪れた新潟のスタジアムと、アルビレックスの熱狂が忘れられないということであった。海外はもちろん、日本のスタジアムもかなり訪れたが、スタジアム全体を包み込むような愛情、町全体が応援している雰囲気はなかなか味わえないという。どうしても、日本にいる間にもう一度あの感動を味わいたい。そして、彼は耐えきれず、電話を取り出してスケジュール調整を始めると、今週末の鹿島戦に新潟を訪れることにした。
 トップアスリート、それも海外組の成功者が、スタジアムの雰囲気を求めて新潟を訪れる。これは、日本より先にアルゼンチンでブレイクしてからその良さが認められ、逆輸入された「島唄」のようなものではないか。目の前にある宝に気づかず、他人の宝に羨望の眼を向けていないか。隣の芝は青く見える?今週末は、私費を投じてやってくる彼を大いに感動させ、彼の来シーズンの活力となるような熱い試合を見せてあげようではないか。

2007年5月15日 12時36分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。