2007.05.22 第12回「焼肉かっぱの誓い」

 前回、予告したとおり、チェコリーグ「ラッセルベルグ・プルゼン」所属のアイスホッケー選手、坂田淳二が19日の鹿島戦にやってきた。いきなり東京発の新幹線が満席で、浦佐まで立ちっぱなしという波乱の幕開け。それでも、燕三条あたりからぐっと増してきたオレンジ色に心をときめかせ、ついには、新潟駅からスタジアムへ向かうシャトルバス車内での光景にすっかり心奪われたという。そういえば、「ニイガタ現象(双葉社刊)」にも、オレンジ色の集団が群れをなしてスタジアムへ向かっていく光景への驚き、感嘆が記されていた。写真家の宇都宮徹壱氏も全く同様の感想を述べていたと記憶する。新潟では日常の光景も、よその人が見れば非日常になる。ちなみに、坂田選手は、スタジアムコンコースの強風にも驚いていたが、これも日常である(苦笑)。

 ところで、チェコのサッカーといえば、ウルチカ(細道)と称される、ショートパスで小刻みに繋ぐサッカーを特色とする。これは、アイスホッケーのチェコリーグにも反映されているそうで、坂田選手も中学までサッカーもプレー(帯広選抜)していたが、サッカーとホッケーを両方プレーする、いわゆるマルチアスリートが当たり前の地域では、当然といえば当然の現象なのかもしれない。いずれにせよ、アイスホッケーにサッカーの戦術が取り入れられているチェコリーグで2年間もまれていることもあり、坂田選手は試合内容にもいきなりのめり込んでいった。

 やはり気になるのは、自分と重なる前線の選手の動きのようである。僕たちが見ていた、Nスタンド2階席のコーナー付近というのは、ゴールに迫ってくる迫力と、スタジアム全体が俯瞰できるという誠にお勧めな場所であるのだが、そこで見ると、ピッチ上の11人の動きが手に取るように分かる。その点、テレビの映像ではどうしても限界があるのが、ボールのないところの動きである。例えば、前線の選手と相手ディフェンダーとの駆け引きをよくみていれば、どうしてシュートすら持ち込めないのか(中盤からボールが出ないのか)、逆にどうしてあんな簡単にシュートを決めるんだろう(なんで、こいつそんなにドフリーなん?)なんていうのも分かるのだが、そういう意味で、目立っていたのが鹿島FWマルキーニョス。予期に反して、長いボールを蹴ってきた鹿島に対して、新潟の守備陣は大混乱。ゲーム序盤、圧倒的に支配された裏にはマルキーニョスのスペースメイクや、ボールを引き出す巧みなフリーランニングがあったのは見逃せない。

 もっとも、そんな劣勢のゲームも深井の一発で一気に形勢が変わってしまうのがサッカーの不思議なところ。こういうところがホームの力なのだといつも思うが、それでも勝ちきれないのが新潟の現在のチーム状態なのだろう。流れの良い時間帯を生かし切れないと、試合終盤に向けてズルズルと失速。防戦一方とはこのことで、北野のファインセーブと、ダニーロが新潟12人目の選手として機能したことで、なんとかドローに持ち込めたが、シュートらしいシュートも深井のあの一発だけで、全般的に見れば、かなりグタグタな試合だったと思われる(メインで見ていた息子は後半うたた寝したらしいが、子供は正直だ)。
 ちなみに、坂田選手は、同郷の北野の活躍に手を叩いて興奮し、ラストプレーで、松尾がシュートに行かずに、折り返したことを大いに嘆いた。もちろん、サイドからのセンタリングをファーで受け、もう一度中に折り返すのは、新潟が何度もやられた黄金パターンの一つであるが、点取り屋の血が許さなかったのだろう。試合後、ゴール裏が拍手もせず、意気消沈した様子を見て、「そうだろ、そうだろ。さすがサッカーをよく分かっている」と、粋に浸っていた(笑)。

 ところで、新潟とは関係ないが、鹿島の本山の精彩のなさが気になった。プレーのキレもそうだが、転んでアピールしたり、余計なところに知恵がついたというか、これは違うだろうという感じを多々受けた。うちの子供が所属するクラブのコーチは、ボールを奪われた後のスライディングプレーに対し、厳しい態度で臨んでいる。なぜなら、スライディングは一番勇敢に見える一方で、一番楽だからだ。ボールを取り返せれば、それはそれで素晴らしいかもしれないが、ボールを奪えなかった場合、それで終わりになってしまう。本人は任務を果たした気になるかもしれないが、そのしわ寄せはほかの10人に回ってくる。子供のうちから楽なプレーを覚えちゃいけない。自分が奪われたボールは、自分の責任で汗を流して追わなくてはならないのだ。
 そんな本山とは対照的に、深井は無駄だと思っても、相手のバックパスに対し、懸命に走り、プレッシャーをかけた。一度、それで相手がミスをし、マイボールになったシーンがあった。前半から飛ばした深井は途中から足が止まり、途中交代となったが、僕らはこういうプレーが見たいし、子供にもこういうプレーを見せたい。後半うたた寝していたという息子も、深井のプレー、特にあの前線からの激しい守備にはインパクトを受けたようで、盛んに凄かった、凄かったを連呼していた。そうだ、君のチームで一番さぼりを指摘されているのは、同じフォワードのお前なんだよ(笑)

 さて、坂田選手の日帰り観戦ツアーは、かの反町康治が愛したとの噂もある、駅南の焼肉屋「かっぱ」で締められた。そこで、彼が語った言葉を紹介する。
「アイスホッケーのチーム、新潟に出来ませんかね。ロシアリーグに参入するのもいいじゃないですか。そしたら、俺、絶対新潟に住みたいです。この地で戦ってみたいです」

 これ以上の褒め言葉はなかなかない。彼に食べられた、ハラミ君も、タン塩君も思い残すことはなかったと思われる。

2007年5月22日 16時26分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。