2007.05.29 第13回「タフな男たちの戦うダイナミズム」

 体は重いが、心は軽いという不思議な週明けを迎えている。体の重さの原因は二つ。まず、土曜日に息子の運動会の綱引きに張り切って出場。白組の大逆転勝利に貢献する2連勝を飾ったが、その代償はあまりにも大きく、未だ強烈な筋肉痛に悩まされている。しかし、わずか20秒足らずを2セットやるだけでこれだけのダメージを与えるとは、綱引きをなめるべからず。ビリー・ザ・ブートキャンプ以上の短期間集中プログラムとして、ブームを呼ぶ可能性を秘めていると断言しておこう。多分、来年の今頃、テレビの向こうで軽快な音楽に合わせて、ビリーが綱を引いている。
 もう1点は、いよいよ新潟県社会人リーグが開幕。周囲に、新潟のマルディーニと呼ぶことを強要して1週間。同級生の彼が、チャンピオンズ決勝の舞台に立ったのと同様、僕もアテネならぬ、松浜(松浜!)の三菱ガス化学のグラウンドに立ち、左サイドバックで先発出場した。残念ながら、戦術的な理由により(苦笑)、前半で交代になったが、それでも練習試合と公式戦では疲労度と体のダメージが違う。スライディングタックルに行った際、指を踏まれ、肉と血が飛び出したのはご愛敬だが、そうでなくても、風呂に入ると、体のあちこちに青あざが出来ているのに驚く。プロの当たりの激しさはアマの比でないからして、よくもまぁ、心身ともこんなハードな日々を送れるものだと改めて感心する次第だ。

 反対に、心の軽さの原因は明かであろう。ナビスコカップでの情けない戦いぶりに、来月発売になるであろう某サッカー雑誌に酷評の原稿を送ったばかりだが、こちらの動きを察したかのように、鬼門のヤマハスタジアムで磐田に逆転勝利を収めてしまった。
 復帰したエジミウソンが、これまでの鬱憤を晴らすかのように持ち味を発揮する。また、千葉というパートナーを得た勲が、ゲームメイカーとして一皮むけたような良質のパスを次々に配球する。後半などは、かつての磐田を知るものとしては、どっちが磐田で、どっちが新潟か分からないほど、圧倒的にゲームを支配していた。ボールを回す新潟。振り回され、足がどんどん止まる磐田。敵地での再逆転勝利。これほどの痛快劇はない。

 もっとも、これだけで、心が軽くなるほど新潟のマルディーニは安くはないのだ。実は、もったいぶっていたが、磐田でのゲームの4時間前に行われた、我がジャミネイロの開幕戦も、3-2で逆転勝利を収めていた。しかも、0-2を跳ね返しての大逆転勝利。これは大きい。夜には、貴章の日本代表選出も発表された。これほどの喜びが重なる週末もそうはないだろう。

 さて、今日はせっかくの機会なので、ジャミネイロの試合を少し振り返らせて欲しい。この日、非常にきいていたのが、ワントップ気味に位置するフォワード、谷口ことオリヴァー・タニホフ30歳である。191cmの長身と、無駄に高い身体能力。これまでの人生をすべて気合いで片づけてきた気合い系プレーヤーだ。試合によってかなりムラがあるが、乗っているときの彼は手がつけられない。注目すべきは、その激しい運動量だ。僕はサイドバックでプレーしたので、サイドに流れ、顔を出してくれるともの凄くありがたい。もちろん、プレスがきついときに、少々乱暴なボールを出しても、相手のDFを背負ったまま、キープしてくれるとさらにありがたい。相手のバックパスを、無駄だと思っても、気合い走りで追いかけ、プレッシャーをかけてくれると、涙が出るほど感動する。
 これを全てやってくれたのがこの日のタニホフであった。彼に寄せるDFを、次々になぎ倒す姿は、黒王号にまたがったラオウそのものであり、バックパスに対し、プレッシャーをかけられる相手は、タニホフの突進に怯え、恐れおののいていた。サッカーを始めるのが遅かったタニホフは、確かに、ボール扱いの技術そのものはまだまだ粗い。トラップもピタっと足元に収まることなく、どちらかというと跳ねるのだが、その後の瞬発力があるため、結果的に、スペースへ流す見事なファーストタッチとなって、ミスを気合いで隠す。ヘディングもとにかく競り勝つが、ゴール前では外しまくる。事実、この日も、何度かあった絶好のシュートチャンスをあえなく外し続けていた。

 でも、チームメイトとしてはこれほどありがたい選手はいない。と、同時に、相手にするとこれほど嫌な選手はいないと思う。ここまでくれば、皆さん、もうピンと来ているだろう。そう、貴章とプレースタイル、特徴がとてもよく似ているのだ。磐田戦を思い出して欲しい。ピッチをかけずり回り、DFを混乱させ、新潟の攻撃にダイナニズムと戦う姿勢ををもたらせていたのは紛れもなく貴章だった。常に勝負をしかけ、前への姿勢を打ち出す。この日は、まさに彼の良さがいかんなく発揮された試合であったでなかったか。

 貴章もそうだが、こういう潰れ役のフォワードというのは、現場とサポーターの評価が大きく異なることが多い。でも、繰り返しになるが、本当にこういう選手がいてくれると周りが楽なのだ。監督としても、これほど頼りになる選手はいないのだ。この日、大活躍しながらも、結果が出ないことで、スタジアムからブーイングを浴びていたかもしれないタニホフも、右からのクロスボールを見事なヘディングで押し込み、歓喜の決勝ゴールをあげたのである。
 奇しくも、貴章が、日本代表としてキリンカップにのぞむ数日前、タニホフは結婚式を挙げる。ビリー、マルディーニ、タニホフ、貴章。今週のキーワードはタフであった。男なら、タフであるべし。そんなタニホフの幸せと、貴章による祝福弾を願わずにはいられない。

2007年5月29日 17時34分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。