2007.08.21 第25回「走るギャル男」

 15日の名古屋戦は,予想通り超満員で膨れあがった。折からの大熱波で、スタジアムの中はうだるような暑さだったが、やはり超満員のスタジアムは気持ちがいいものだ。僕の周りでも、帰省ついでにスタジアムを訪れた人が非常に多かったようである。普段、新潟にいる僕には気づかないが、彼らにとってのビッグスワンは、まさに聖地なのだろう。強烈な西日が射すEゲート前は、人の渦と、売り子の声が飛び交うイスタンブールのバザールのような賑わいだったし、超満員のスタンドが発する熱は、熱帯夜に苦しむそれとは異質の非日常的なものだったに違いない。そして、4ゴールのラッシュ。聖地巡礼の日を、このような良い雰囲気で迎えられて、僕としてもなんやら誇り高い気分だった。

 チームは、続く神戸戦にも勝って連勝街道を歩もうとしている。悪くない。いや、それどころか素晴らしい。昨年、同じように4位につけながら、あれよあれよ、毎年恒例ゴールデンウィーク終了後の広島カープのような失速で、黒星を重ね、ついには14位に沈んだ同じ轍を踏まずにすみそうだ。特に、神戸戦。あのような内容のゲームで、きっちり勝ち点3をとってきたことに、チームの地力というものを感じる。思えば、J1に上がってからは、ここぞという試合でことごとく勝てなかった。いいところまでいくのだけど、結局はドローや逆転負け。上位チームが毎試合素晴らしい試合をしているわけではない。ああいう内容のゲームでいかに勝ち点を積み重ねられるかが上位と中位の境目だろう。そういう意味でも価値ある1勝だった。

 もっとも、結果は満点でも、2試合とも試合内容としては決して良かったわけではない。前述の神戸戦はもちろん、4-0で圧勝した名古屋戦も、ビューティフルゴールに救われたものの、サッカーの試合としては少々物足りないものだった(名古屋のサポーターから見れば、金を返してくれというレベルだったと思われる)。その原因は何か? 言うまでもなく、暑さ、連戦の疲れだろう。

 この時期は暑い。それは誰にも分かっていると思う。ただ、実際、この時期に体を動かしている人はあまり多くないのではないだろうか。例えば、真夏のグラウンド。太陽エネルギーによって生まれた気温とともに、照り返しによって生じる地面からの熱波に悩まされる。特に、雨の降った後のそれは蒸気を発し、サウナのような状態。余談だが、真夏の日中における犬の散歩は、ただでも暑さに弱い犬にとって殺人行為と言うが、それはこのアスファルトの照り返しを、彼らは地上数センチで受けるからである。ためしに、裸足でアスファルトの上を歩いてみると良い。熱湯コマーシャルのテーマが流れてくるから。
 暑さは体力と思考能力を奪う。疲れてくると判断力が落ち、プレーは雑に、そして精度も落ちてくる。体のストップが聞かないから、技術ではなく気持ち先行のファールが増える。頭で分かっていても、体が反応しないから、つかんだり、押したり、本能的に手が出るのだ。神戸戦を思い出して欲しい。リアリズム溢れる、両チームともあまり美しくない肉弾戦になるのだ。日本では、夏休みで、興行的に夏のリーグ開催は外せないだろうが、ゲームの質という点だけを考えれば、サッカーに対する冒涜とも言えるだろう。

 そういえば、夏場のゲームでよく問題になる「走る」ということについても触れてみたい。「走れよー」とか、「気持ちを見せろよー」というのは、この時期、主として負けチームのスタンドから発せられる常套句、夏の風物詩と言っても良い。しかし、浜崎君とも話をしたことがあるのだが、そういうことを言う奴に限って、経験上、実際のゲームでは走っていない、若しくは、走ったことのない奴だという結論になった(笑)。
 この暑さの中で、彼らが要求する走りを実現させるのは、生理学的に不可能だと思う。夏場はほんとうにしんどい。僕らは、所属チームの中では運動量を求められるポジションなのでちょっとは分かるつもりだ。もともと体力のある人はいると思うが、ゲームのキャラクターのように人は動けるわけではない。生身の人間なんだから当たり前だ。そこで、より大事になってくるのは走りの質である。僕なら、限られた資産(体力)の中で、いかにパフォーマンスを発揮するかを考える。たとえば、あまり実効性のないアリバイのような、ボールアプローチで体力を失うぐらいなら(みんなが走れ、走れという奴だ)、動かず、中を切って、カウンター時の走りに体力を温存する方法を選ぶ。僕はフォワードではないが、守備で疲弊して、肝心のゴール前で燃料切れになるフォワードなんて、善人の藪医者みたいなもんじゃないか。
 そういうわけで、周りに真夏の常套句を叫んでいる人がいたら、その人の体型などを観察してみるのも一興だろう(笑)。

 もちろん、走るということはサッカーの本質だからして、これを怠るのは言語道断である。手前味噌だが、うちのジュニアチームは、この夏、ある意味、前時代的な素走りのトレーニングを徹底的に行った。炎天下のランニング。それは体力をつけることはもちろん、子供の時から、サッカーにおいて走るということが当たり前という感覚になって欲しいから。おかげで少しは体力と根性がついたかな。むろん、子供を走らせるからには僕も一緒に走らなくてはならない。また、少なくとも、子供より多く走らなくては示しがつかぬ。かくして、炎天下における1日5km平均のランニングを自らに課した結果、ギャル男と呼ばれる風貌と、年齢不相応の体のキレを手に入れたのであった。

さぁ、君もギャル男にならないか?

2007年8月21日 19時08分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。