2005.05.02 24−TWENTY FOUR−

 書きにくい。なんちゅう試合をしてくれたんだ!
 雨の広島ビッグアーチに駆けつけたサポーター、テレビの前で固唾をのんで見守ったサポーター、外出先から携帯を無駄にリロードしてしまったサポーターの中でも、僕のテンションは結構高い部類にあっただろう。前節行われた清水戦が、この原稿締め切り直近の試合だったら、僕はアンカーとして活躍、とりわけディフェンス面で格段の進歩を遂げた勲にフォーカスをあて、ようやく形になり始めた2005年の新潟ついて言及するつもりだった。こういう原稿は書きやすい。書いている方も、読んでいる方も極めてポジティブ、前向きになれる。ついでに僕の評判もあがるというものである。

 今日の試合もこの流れでいかなくてはならなかった。勝ち星こそ、4月9日の大宮戦(あの劇的だった大宮戦だ)以来見放されているものの、試合内容は上り調子。ここ最近の趨勢(すうせい)から好ゲームは必至、願わくは快勝で次節のホームゲーム(MSNサンクスデー)に繋ぐとともに、僕の原稿も、3日前に考えた構成で苦もなくすんなりと書き上がるはずだった。

 点が入るたびに、僕の原稿は微調整を余儀なくされ、僕はそのたびに小さな悲鳴を上げた。そして試合後、全くの白紙に戻った。反町流に言わせてもらえば、良い準備をしていたつもりだったが、これらは全くの無駄に終わってしまったのである。
 喪失感に襲われたのは、もちろん僕だけではないだろう。このゲームの前夜、新潟で、サポーター仲間の結婚式が行われていたのだが、その会場からも多くのサポーターが宴を途中で切り上げ、広島行きのバスに乗り込むべく、会場を後にしていた。テレビモニターを通じて拝見できた彼らは身も心もずぶ濡れだった。前夜、あんなにご機嫌で赤ら顔に染まっていた彼らの顔が水浸しにされ、公共の電波で晒されているのである。これはお笑いウルトラクイズではない。しかし、立派な罰ゲームではないか。

 あまり気は進まないが、ゲーム内容を振り返ってみよう。
 リーグ優勝経験のある名門サンフレッチェ広島とはいえ、J2時代を含め、もう3年連続の付き合いとなり、しかも、J2時代には覇権をかけ、しのぎを削っていたものだから、すっかり馴染みのチームだ。どういうサッカーをしてくるのかも熟知している。相性も悪くない。慎吾が欠場したとはいえ、注目のアンデルソン・リマがスタメンに名を連ねたこの試合を、僕だけじゃなく、多くのサポーターが楽しみにしていたと思う。
 試合序盤は一進一退。ところが、前半35分、見事なセットプレーで先制されると、その後も失点。特に反撃を期待した後半は、逆に返り討ちにあったという表現がぴったりなくらいやられまくり、終わってみれば実に0-5の大敗であった。

 確かに広島は強かった。野武士のような顔をした駒野、策士小野監督の狙いか、あらゆる意味で「対」になる癒し系フェイスの服部の両サイドバックから精度の高いクロスボールがガンガンあがる。中央では、札幌時代、全く存在感がなかったベットと、正直、未だにどっちが兄で弟なのかわからない森崎が絶妙のゲームメークをみせる。この広島に対して、この日の新潟はいったい何ができたというのか。
 移動距離を含めた強行日程の問題もあっただろうが、ファビーニョ、慎吾がピッチから去り、そして3点目をとられたあたりから、自慢のムービングフットボールは影を潜め、ピタリと足が止まった。もちろん、選手個々で頑張っているのはわかる。しかし、チーム全体としてみた場合、あまりにも無力であり、得点の予感は限りなくゼロに近かった。力強いゴールが決まるたびに沸き返る広島と対称的に、うなだれ、雨に打ち続けられる新潟は、かませ犬の悲壮感すら漂っていた。すべてに対して白旗を上げざるを得ない、打ちのめされた1日だった。
 
 さて、こういう敗戦を引きずる間もなく、明後日水曜日には次のゲームが控えている。正直、僕らは長い間サッカーを見ているわけだから、1試合の完敗ぐらいで、ギャーギャーわめくような情けないことはしない。逆に、笑いが止まらないぐらいの内容で勝つこともあるのだ。すべてが「「こういう日もあるさ」のスタンスである。極端に言えば、そうじゃなきゃ、クラブチームの、とりわけLocalチームのサポーターなんてやっていられないのだ。

 しかし、僕はこのコラムを書くに当たって、オフィシャルページで今シーズンの試合結果を調べてみた。24日間。これは僕らが勝ち点3に見放されている期間であり、残念なことに記録更新のおそれありである。短気なジャック・バウアーがサポーターなら切れているかもしれないが(笑)、リーグはまだ四分の一を経過したにすぎない。この時期の順位なんて、僕的には、おにゃんこクラブ出身のタレントと某お笑いタレントの結婚ぐらいどうでもいいことだ。しかし、サポーターとしては、何よりも欲しい勝利という結果にこれだけ長い間見放されているのは大変つらいところ。
こういう陳腐な表現で締めるのもどうかと思うが、大敗の次の試合こそ真価が問われるものである。4日の試合こそ、選手、サポーター一丸となって、新潟の誇りをかけて戦かわなくてはならない。相手は因縁の川崎である。歌うのは「マルクスゴール」ではない。僕らの勝利の歌だ。

2005年5月2日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。