2007.09.04 第27回「オシムの言葉」

 先週は、「FEEEVER2!!」を取り上げたが、2年前にリリースした「グラマラス」を覚えていようか? 表ジャケットに咆哮するアンデルソン・リマ。裏ジャケットには、たまたま来日していたリマ親父の当惑した表情がデーンと飾り、リマ家を狂喜乱舞させたアルバムだ。このアルバムに収録された「Seigoro On My Mind」というスタジアムメドレーは、サポーターズCD史に残る傑作の一つだと思うのだが、4曲目にボーナストラックの形で収録された「Le Cygne Stomp」という曲も、相当のプレミアがついている曲である。演奏・アレンジを担当したのは、今をときめく「レフレール」。全公演ソールドアウトが続く人気沸騰中のピアノディオだが、彼らのマネージャー(ディレクター)と僕が大学時代のバンド仲間である縁から、サポーターズCD精神にのっとり、ノーギャラ(笑)で参加してもらった。レフレールが、ドリフ(ファビーニョのテーマ)を弾いていると聞けば、彼らのファンは卒倒するかもしれない。

 千葉戦のあった日は、そんなレフレールの新潟初公演の日でもあった。毎試合好ゲームを見せてくれる千葉戦を、前半のみとはいえ見逃すのは辛い。しかも、「この試合は絶対いいゲームになるから、よーく見て勉強しとけよ」とうちのクラブの子供達に言った自分自身が見られない後ろめたさもあったが、友人との数年ぶりの再会を反故にするわけにもいかない。

 言わずもがな、ライブは素晴らしいものだった。コンサート中のMCで、「実は僕たち2年前にメジャーデビューさせてもらっているんです」と、グラマラスのCDをあげ、新潟に感謝を示してくれた。そういえば、当時、彼らのマネージャーが、漢(おとこ)の箱買い(100枚)をしてくれたんだ。売るのに相当苦労したらしいけど(笑)、今のこの立派な姿を見ると感無量だ。4本の手でピアノが歌う、踊るというキャッチフレーズ通りの2時間。頭の中でピアノの音が鳴り響く高揚した気分で、スクーターにまたがり、スタジアムへ向かったのだ。モバアルで前半はスコアレスということを知っている。夜はこれから。なんて、素晴らしい週末なんだ。

 そういうわけで、試合は後半から見ることが出来たはずなのだが、都合により、試合内容の話はここで終了となる(苦笑)。アマル・オシム監督のジャージ姿と、機能していないとみると、主力ですら容赦なく代える潔い采配が目立ったが、新潟からしてみれば、プレスをかける位置こそ低いものの、ラインを高く保持してコンパクトに保つ千葉の術中に見事にはまってしまったような試合だったのではないか。巻と貴章の代表FWサバイバルマッチと謳われた試合も、これを焦点にするならば、随分ぼけた試合だったことも否めない。試合は敗戦。あまりのブルーさに、いつも通りテレビオフで速攻寝たが、これはボーダーライン上に乗っていた両者も同様だったかもしれない。

 ところが、翌日の代表追加選手の発表日。大方の予想に反して二人とも選出されたのである。直前のキリンカップでは、アジアカップからの選手の入れ替えに関し、「アジアカップでその力、クオリティが分かっている選手はあえて呼ばなかった」と言っていたオシムであったが、その言葉を信じれば(信じろよ)、貴章もオシムによって、クオリティが保証された選手であると言えよう。
 つまり、アジアカップでの起用方法を見て、オシムの中で貴章は戦力外の烙印を押されたのかと思ったがそうではないようである。それどころか、キリンカップ同様に、FWの選考理由について、オシムはこうはっきりと述べている。

「(この選考結果を通じて)FWたる者はどういうプレー、言動をすべきかメッセージを出しているつもりだ」

法廷(裁判所)で下された法律解釈のような、実に決定的な、重みのある言葉ではないか。

 最近読んだネット上の記事で、イタリア人コーチが、日本人は試合に勝つためではなくて、テクニックを磨くために練習をしている傾向があるのではという指摘をしているのを目にした。なるほど、耳に痛い指摘である。
 日本では、僕も含めて足下の技術、ボール扱いの練習ばかりしたがる。リフティング、コーンドリブル、狭いところでのパス回し。たとえば、その国のサッカーのとらえ方を表すエピソードとして、サッカーをしようと2,3人が集まると、イングランドではロングバス、日本では輪になってのリフティングを行うという話があるが、知らず知らずのうちに、ボールの扱いがうまい=技術が高い、という図式を描いているのかもしれない。きっと日本人である僕らはそういうプレーヤーを好み、本質的に求めているのだろう。
 なるほど、細かいタッチ、俊敏性、密集でのパス回しなどは、技術大国日本の真骨頂であり、大雑把な欧米人に何が分かる、という三条・燕の職人の叫びを味方につけ、擁護したい気持ちもあるが、一方で、アマチュアレベルの僕でも、対戦していて嫌な相手は、上手い奴ではなく、下手でもスピードがある奴、運動量がある奴、体が強い奴であることは否めない。その点、敗れたとはいえ、清水戦、千葉戦での貴章のプレーを見ていると改めて思う。ルーズボールの競り合いに果敢に飛び込んでいき、また、無理目に思えるゴール前の空中戦でもぐっと頭が伸びて来る。また、チェイシングの迫力が半端じゃないため、相手DF陣にビルドアップの時間とスペースを与えない。

 なんといっても、世界基準のオシムの言葉である。これに尽きる。外野がなんと言おうと、国際大会で何も結果を残していない者に説得力などないのだ。現金なもので、全く興味がなかったオーストリア遠征がぐっと楽しみになってきた。貴章には世界基準のダイナミックプレーと、三条・燕系の職人技のエスプリを見せて欲しいところ。オーストリア人やスイス人に背脂をちゃっちゃっと食らわせてやれ。もちろん、A代表初ゴールの際のBGMは、鼻歌のオメキメレキショーでお願いする。どうして、貴章が県央ラーメンを背負わなければならないのか、書いている本人もよく分からなくなったが、これは浅妻の言葉として、オシム監督も胸に留めておいて欲しいところだ。

2007年9月4日 16時44分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。