2007.09.25 第30回「下部組織の充実」

 鬼門カシマでの敗北の翌日、モバアルメールサービスで一つのニュースが入った。アルビレックスユース所属の大野和成、長谷部彩翔2選手のトップ昇格が内定したという。残念ながら僕は2選手のプレーを見たことはないが、それぞれサテライトリーグの出場や、年代別代表の選出経験も豊富で、実力的にも問題はないだろう。
 そもそも、下部組織からの昇格組、すなわち自前で育てた選手がトップチームに誰もいないことがしばし批判の的となっていたが、世間体とサポーターの目を気にして、実力不十分な者を上げるより、本当に昇格に値する者が出るまで待ったクラブの方針に間違いはないと思う。高校生にプロという甘言を囁くのは簡単だが、夢だけでは食っていけないのがこの世界。彼らの将来を考えれば、早いうちに現実を告げるのも優しさだと思う。今年は、全日本ユースで決勝トーナメント進出を果たすなど、下部組織も本当に力をつけてきた。彼ら二人の活躍が、下部組織の子供達のやる気と、さらなるチームの底上げを導いてくれるはず。現在は紛れもないJ1クラブであり、チーム内競争は厳しいと思うが、同じく来期の入団が内定したフィッツジェラルド、木暮とともに切磋琢磨し、来るべき黄金時代を築いて欲しいものだ。

 サッカークラブにおいては、下部組織の充実というのがグローバルスタンダードになっているが、特に、スペインリーグのバルセロナやアスレティック・ビルバオなどは、スタメンに多くの下部組織育ちの選手が名を連ねることから、もっとも成功している例として取り上げられることが多い。確かに、バルセロナを眺めてみると、プジョル、メッシ、チャビ、イニエスタ、ビクトール・バルデス、オレゲール、ドス・サントス、ボージャンなど、世界有数のメガクラブでありながらスタメンの半数近くが下部組織上がりという信じられないことになっている。カンテラ(スペインの下部組織)は金がかかるだけで実効性は薄いとして、その予算を大幅に削ってしまったレアル・マドリーと比較するとその優位性は際だつばかりだ。
 ただ、バルセロナやビルバオの成功例をもって、我がクラブでどうしてこれが出来ないのかを論ずるのは性急すぎるだろう。なぜなら、カンテラと呼ばれる彼らの下部組織は文字通りのプロ予備軍であり(反町監督の話では、日本ではユースとカンテラを混同している人が多いがそれは違うと言っていたような・・)、早い段階からスカウト網を張り巡らし、きらめく才能を求めて、バルセロナにいたっては世界中から、バスク純血主義をうたうビルバオにしても、ビルバオ市を超えてライバルチームからの引き抜きも恒常化しているのだから。アルビレックスの下部組織、まぁユースは別としても、例えばジュニアユースやジュニアが、シーズン途中に対戦相手からバンバン選手を引き抜いていたらどうなるか。引き抜かれる選手はもちろん、その周囲からも羨望の対象となるクラブになれるかどうかは別にして、第三者の感情的にそれが受け入れられる土壌はまだ日本には出来ていないと思われる。

 もちろん、日本でもガンバ大阪やサンフレッチェ広島のような成功例もあるのに加え、最近はどのクラブでも下部組織出身の選手が増えているのは確かであるので、育成型のクラブは日本ではスタンダードなり得ないと結論づけるつもりは毛頭ない。Jリーグが誕生して15年経った効果が確実に出ているのだろう。そして、新潟のような地方クラブが生き残っていくには、下部組織はもちろん、地域のレベルを上げていくほかに方法がないのも誰もが一致した意見だと思う。
 
 地域のレベルを上げるには、やはり目標や指針となるようなモンスターチームの出現が一番実効性が高いのではないかと思う。その点、立ち上がったばかりのジュニアはさておき、ジュニアユースでは、アルビレックスを頂点とするピラミッドが出来つつあるようであり、現小学生の中では、アルビレックスのジュニアユースという選択が一つの憧れになっているかもしれない。僕はたまにスクールの練習(スペシャルクラス)を見学させてもらうことがあるが、短時間に密度濃く、効率的に練習できるものだといつも感心する。もちろん、コーチの指導力はもちろん、ラダーやミニハードルを使ったコーディネーション・トレーニングも組み入れた練習メニューの充実は、僕も、しばし自チームの練習にパクっているほどで(笑)、プログラムに加え、プロレベルの技術を、コーチが目の前で実演してくれるJの下部組織はやはりアドバンテージがあるだろう。
 ただ、話を聞くと、練習場が聖籠町にあるという都合上、移動時間の関係などから中学生としてはなかなかハードな生活を強いられる人も多いようである。送迎バスは出ているが、3学年揃っての移動になるため、21時過ぎに練習帰りの選手を乗せたバスが新潟市内を走っているのをしばし目撃する。僕らの頃は、試験前しか勉強しなくてOKの時代であったから良かったものの、勉強との両立を図ろうとする選手にとっては、相当の自覚と気合いが必要だろう。

 その点、書物で読んだ知識だが、アヤックスでは、クラブハウス内で食事の提供に加え、学習時間も強制的に確保していたはずである。「クラブが子供達を全面的に受け入れるということは、サッカーだけではなく、学習活動を含めた人間教育を前提として成り立つと考えているからである」(糀正勝:オランダサッカー強さの秘密)
 ユースが事実上、プロ予備軍に近い体制になったことは知っているが、新潟のジュニアユースの事情はどうなのだろう。無責任を承知で言わせてもらえれば、良い作物を作るためには、良い土壌を作らねばならぬわけであり、実を穫ることばかり焦って、そこへの投資をケチっては、決して大輪の花を咲かすことはないのではないだろうか。こういうところにこそ、どんどんお金を落として欲しい。

2007年9月25日 14時03分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。