2005.05.16 泣けない悲劇

 小学生のころ、国語の教科書で、外山滋比古という偉い先生が、「人は、ナイターの結果を知っているにもかかわらず、どうして新聞でも結果を見るのかな」という、子供の急所を突くような大人げない問い方をして、幼心を唸らせた記憶がある。悔しかった試合の翌日は気分だけでなく、新聞を開く手まで重い。じゃあ、読むなよと自問するたびに外山先生のその言葉を思い出すものだから、偉い先生はさすがに偉いと呼ばれるだけのことはあるなぁ、とまた唸っている。

 相手が首位を独走する鹿島アントラーズということで、おそらくかつてないほど、全国から暖かい声援を一身に受けた14日のゲームは2-2のドローに終わった。新聞の見出しが目に入る。
「新潟、金星ポロリ」
「鹿島ヒヤヒヤ、ドロー」
 僭越ながら寸評させていただく。

 まずは、「新潟、金星ポロリ」から。確かに現在の順位、そしてチームの歴史から言えば金星という表現に安易に走りがちである。しかし、この日の鹿島は、金星という表現に値するほど良いサッカーをみせていたか?僕は小笠原のプレースタイルが好きで、観戦を楽しみにしていたのだが、1ゴール決めたとはいえ、キックのぶれが目立ち、僕が憧れているプレーからはほど遠かった。また、左サイドバックのアリという選手に関しては、初対面で失礼千万ながら、名前からしてネタ系?と思った人も僕だけではあるまい(僕が教えているジュニアチームの子供達は大喜びだった)。
 結構やられていたわりに、こう嘯く(うそぶく)のも気が引けるが、あの鹿島アントラーズにしてはもの足りず、拍子抜けだった。いや、そんな偏屈な見方はやめて大人しく、DF陣の活躍、スタッフチームのスカウティングを褒め称えるべきか。
 蛇足ながら、ポロリといえば、鶴瓶師匠かオールスター水泳大会の専売特許である。使用に当たって充分にリスペクトしたかもう一度再吟味されたい。

 続いて、「鹿島ヒヤヒヤ、ドロー」の巻。
 まずは、ホームゲームでありながら、そして追いつめていたのは新潟の方でありながら、主体を豪快に持っていかれている事実を共に悲しもう。そして、試合展開を思い出してさらに悲しもう。
 電光石火の早業で2点を奪い(特に2点目は極上のファンタジーだった)、さらに優蔵のヘッドがゴールポストを叩いたあたりは祭りの予感が漂ったのだが、結局3点目が奪えず、一方のチームは悪いながら同点に追いつくという展開に現在の順位がそのまま現れているのだろう。よく言われているように、強敵相手の2点差は決してセーフティリードではない。1点差に詰められた時点での恐怖感が、1-0時の比でないからだ。事実、ピッチ上の選手は、萎縮し、決して本調子ではない鹿島に支配されることになった。サポーターとしては、ピッチに魂を注入できる岡山を投入して、ムードを変えて欲しかったところだが、直樹の負傷によりディフェンスのカードを切っていたのが残念だった。

 一言でまとめると、「勝てたはず」の無念極まりない試合だったわけだが、正直、スコアほど興奮できる試合でもなかった。悪い試合ではないだろうが、やや凡戦。

と、何故こんなことを書くかと言えば、この試合を大変な感動をもって観戦してくれた人たちがいたからだ。坂田淳二(モンペリエ)、春名真仁(日光)という二人のプロアイスホッケープレーヤーがこの試合を観戦していて、リップサービス抜きで、感動と賛辞を伝えてくれたのである。特に、坂田選手などは、オフに国境を越えてヨーロッパの各スタジアムに試合を見に行くほどのフリーク。その彼をして、衝撃的だったと言わしめた新潟スタジアムの雰囲気だが、それだけに、余計先週の試合を見てくれたらな、と思ってしまう僕がいる。
 もっともサッカーの場合、凡戦は決して少なくなく、むしろ大多数を占める凡戦があるからこそ好ゲームが引き立っているのも事実。そして、多くのサッカーファンはその感動が忘れられずに次もスタジアムに足を運ぶのだ。僕は新潟の観客数が飛躍的に伸びたのもこれが原因じゃないかと思う。だからこそ、坂田、春名両選手に、僕らが知っている極上の感動を味わせてあげたかった。

 最後に、サポーター、そして言いたくても言えないクラブ、選手を代弁して僕が言わせてもらおう。僕は有料チケットで観戦したれっきとしたお客さんである。いう権利はある。
 主審。試合の演出者はあなただけではない。いや、それどころか主役はピッチ上の選手、そして試合を見に来たお客さんである。確かにあなたのジャッジはあなたの信念に基づいた正確なものだったかもしれない。しかし、実社会でも杓子定規の人間が、その愚直さ故に空気の読めない人間として、忌み嫌われ、煙たがられているのをご存じだろうか。ホームの雰囲気に流されないジャッジを必要以上にアピールして、自分の偉大さを示す必要性はあったのか。異議、シミュレーションに対するイエローカードを連発するのは、思い上がった威厳ではないのか。
 僕が内容的には凡戦と称したこのゲーム。あまりにでしゃばる脇役によって主役が食われるのはそれこそ悲劇であり、それは、涙はおろか、なんの感動も生まない悲劇であった。

2005年5月16日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。