2007.04.30 「28番」にまつわるふたつの話と「愛のチカラ」について

 土曜の横浜FM戦のことを語る前に少しだけ、今アルビに居ない人のハナシをしよう。(Yes!現実逃避!)

 J1の試合がなかった先週の水曜、TVにてJ2の試合を観る機会があった。去年新潟を去ったとある選手が、移籍先で開幕から主力として出場している。そのチームは最近状況があまり芳しくない。短い時間しか観れなかったので語るのも恐縮ではあるが、実力のある選手を揃えているにもかかわらず、なんだかみんな自信なさげなのだ(今なら分かるが、調子が出ないときのチームってそんなもんだ)。そんななか、新潟から移籍していったその選手が、がむしゃらにボールの行方を追い、喰らい付き、周囲のチームメイトを鼓舞しているのが目に付いた。アルビにおいては相手DFにボールが渡ったときに、前線の選手がすかさずプレスをかけるのは当たり前。新潟で得たものを新天地で還元できてるんだなあ、と少しうれしくなった。その日の結果は、彼にとってもチームにとってもあまりうれしいものではなかったけれど。

 まあ伏せて書く意味も無いんだがその選手とは、船越優蔵(現東京V)。去年まで大きな背中に大きな番号を背負い、二度の大ケガから気合で復帰してきたあの人だ。淡々と書いてるが、こう見えても昨年・一昨年はひたすら船越選手の心配をし続け、秋口には心配の余り胃を痛めるという暑苦しさを発揮していたわたくしだ。

 思い出せば彼も、我々サポに暑苦しいほど愛されていた選手だった。リハビリが順調にいかず試合にも出れなかった時期、毎回ホームゲームの前に♪フナコシ大暴れのチャントを歌われていた事実には、ウチらどんだけ船越好きなのよ、と流石に思った。2回目のアキレス腱断裂を経て初めて公式戦に出場した去年夏の横浜FM戦、現地でこの目で観ることが出来なかったのは、去年一番の不覚だと今でも思っている。何故船越があれほど皆に全力で愛されたのか。プレイの質や残した結果以上の理由として、闘う気持ちが非常に分かり易く見える選手だったからなのかな…と今では思う。「新潟の為に」闘う気持ち(Yes! 非科学的!)を見せてくれる人を、我々が暑苦しく愛さない理由はない。

 そういえば船越の復帰第1戦も相手は横浜FM、2点のビハインドを背負っての途中出場だった。そして、これも何かの因縁なのか、今年28番を受け継いだ新加入選手、松尾直人も同じ対戦相手、しかも6点(うわあ)のビハインドを背負っての投入だった。Yes! 超逆境!

 2004年に神戸からのレンタルで半年間新潟に在籍。その後もケガやら何やら紆余曲折あり、今年に入ってアルビの練習生として参加しているという噂は聞いていた。新潟が好きで、どうしてもまたビッグスワンでプレイしたかった。そう松尾が言っていたという話も伝え聞いていた。キャリアアップの為に移籍を繰り返す選手も居るし、それを否定はしない。我々ファンが夢想する選手達のクラブ愛・チーム愛、選手達に持っていて欲しい忠誠心…そんなものより遥かにタフな現実を、彼等は生きているのだから。

 ただ、松尾はここに戻ってきた。自分の意思で、もう一度この場所でプレイしたいと言ってくれた。そういうチーム愛・クラブ愛があったっていいんだと彼は教えてくれた。この上ない逆境のなかでピッチに送り込まれた松尾は、劣勢のなかでもよく攻撃に絡み、いいクロスをあげ、セットプレイでは得点を狙うヘディングもあったりした。ケガで1年間のブランクがあったとは思えないぐらいチームにフィットしており、6対0という厳しい現実のなかに見えた希望のひとつであったことは間違いない。終盤、高い場所から惜しいヘディングを放ち、すぐに起き上がって背中を向けた松尾。その背中に見えたのが、かつて我々があれほど愛した「28番」だったのは何かの運命か。いや勿論偶然なんだけど(台無し)、そういう運命を信じたっていいんだと、あのとき確かにそう思ったのだ。

 試合前の練習の時、ゴール裏にほんの短い間出された横断幕に、書かれていた言葉。

 「おかえり松尾 これからはずっと一緒だぜ」

 ウチらどんだけ好きなのよ松尾! とちょっと思わないでもなかったが、実際見たときは流石に涙目になった。暑苦しいほどの愛。それだけではタフな現実は覆せないが、見返りを求めない暑苦しい愛が現実をはるかに凌駕することだって、確かにある。あの悪夢のような土曜の夜、項垂れながらピッチをあとにする選手達に絶え間なく伝え続けたメッセージ。どんなにツライ現実があっても、我々は彼等を愛し続ける。彼等にもそうであって欲しいと、綺麗ごとながらわたくしは思う。そして、愛の形が一方通行なだけではないことを自らのプレイで示してくれた松尾直人の今後の活躍を、僭越ながらも祈っている。

2007年4月30日 20時18分 平山 明美

PROFILE of 平山 明美(ひらやま あけみ)
1971年生まれ。福島県出身。2003年からアルビを見始めて現在に至るが未だニワカ者を自覚。サッカーの観方もルールもまだまだ分からないことが多いので、愛と精神論と萌えと勢いのみでサッカーを語る。オフサイドはつい最近覚えた。Yes!生涯勉強!