カウンターという点の取り方はどうも受けが悪い。強豪チームが、いわゆる格下に足下をすくわれた場合、心の支えとなるのが、「お前ら、カウンターでしか点とれないじゃん」の、負け惜しみである。おいおい、カウンターっていけないことなのか。雰囲気的には、カウンターによる得点は、3割減みたいな言い方である。
ボールを奪ってから15秒以内でゴールを目指すというのは、山本昌邦氏によって世間に広く知られることになった理論であるが、相手が守備の陣形を整える前に攻撃すれば、スペースが多くあり、必然得点の可能性が増すことは、統計を取るまでもなく、感覚的にも分かるだろう。ポゼッションサッカーの代名詞となっているバルセロナや、国内でもガンバ大阪の戦いを見てもよく分かると思う。彼らの得点シーンだって速攻が多い。みすみす点を取れるチャンスを逃して、無駄に遅攻に持ち込むような愚を犯すことはしない。ロナウジーニョだって遠藤だって、ボールをもらった瞬間に考えるのは、ゴールに直結する最短のプレー、すなわちダイレクトプレーであることに間違いはないし、それが出来ないならば、サッカー選手として致命的な判断が遅いという烙印を押される。もちろん、自陣に引きこもって相手を呼び寄せる戦い方もあるが、今ではどのチームも目指す、ボールを奪われた瞬間からはじまる前線の激しいプレスも、相手守備陣形の整わない高い位置から攻撃を始められるように、すなわちカウンターによる速攻を意図しているのだ。サッカーは点をとるためのスポーツであるから、点をとる可能性の高い方法を探るのは当然である。
それでは、闇雲に速攻を狙えばいいのかというと、それは別である。ボールを奪った瞬間に、速攻を狙って前線にボンボン蹴っていては、選手の体力が持たないし、ボールの落ち着かない、中盤の間延びするなんともしまりのないゲームになる。高校生や、申し訳ないが、J2の試合なんかも、J1と比べるとディフェンスの裏ばかりを狙うサッカーが多く、クリエイティブと言い難いのは否定できない事実だろう。
だからといって、速攻がクリエイティブと並び立たないかというと、これもまた別の話だ。例えば、日本や欧米に比べてプレスが緩く、プレースピードもゆっくりというイメージの強いブラジルや、コロンビアはクリエイティブの代表格みたいなものだが、ここぞという時のスピードアップの迫力とタイミングはJリーグの比ではない。緩急の差というのは、サッカーをプレーする上において最も重要な、オン・ザ・ボールテクニックの一つであるが、ゲームの中でもそれはしかりで、緩があるから急が生きる。ゆっくりと自分たちでボール回しをしながら、相手の隙をうかがう。そして、勝負所は逃さない。急ばかり繰り返していたのでは、相手に脅威を与えないし、その前に息切れしてしまうだろう。
この攻撃のスピードアップのタイミングは、ゲームを読む力というか、サッカーの総合力が問われる瞬間である。先日のキリンカップ「モンテネグロ戦」において、実況を担当したアナウンサーは、よほどサッカーに精通しているのか、それとも相当誰かに吹き込まれたのか、盛んにこの攻撃のスピードアップを連呼し、解説者に同意を求めていた気がする。なんせ、このコラムで取り上げようと思い立ったくらいだから、かなりしつこかったのは間違いない(笑)
実は、自分たちの試合でも、毎試合のように反省させられるのがこの攻撃のスピードアップのタイミングである。自慢にならないが、偉そうに書いている僕が全く出来ていないのだから話にならない(苦笑)。自分では落ち着いているつもりなのに、焦って攻め急いだり、逆に欲しいタイミングで肝心の縦パスが出せずにバックパスで逃げてしまう。先週に引き続き、ジャミネイロの話になるが、県4部ながら、県トップクラスのメンバーも混在するジャミネイロでは、この攻撃のスピードアップのタイミングが合わず、試合後に話し合いが行われた。
例えばトップの選手は、サイドバックからボランチに入るくさびのボールの角度、コースを見て、ボランチから出されるパスコースを予想し、スペースへのフリーランニングを始める。ボランチも、このコースに走り込んでいると信じて、ハイプレッシャーの中、ワンタッチでボールを前線に送る。もっと遡れば、サイドバックはこのフォワードの動きを期待して、ボランチにメッセージを込めたパスを送らなくてはならない。文章にすると簡単だが、これが出来ない。刻一刻と変わる戦況の中で、瞬時に同じ絵がなかなか描けないのだ。だから、肝心の勝負所で、欲しいタイミングでボールが来ない。出したい場所に相手がいないというチグハグな状況が生まれる。そして、これらが判断の速さと言われるのは言うまでもない。試合は6-0で快勝したが、大きな課題と、それとはまた別に高いレベルの探求心が生まれた試合だった。
かつて、反町前監督は、この状況判断の速さ、ゲームを読む力という点で、本間勲を天才と称した。抜群のサッカーセンスを持っていると絶賛した。皆さんも、週末の神戸戦、勲のプレーを中心に、プロの攻撃のスピードアップのタイミングを僕と一緒に勉強しようではないか。本間勲先生によるサッカー講座。アシスタントは貴章とエジミウソンにお願いしておいた。
2007年6月5日 15時28分
PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。