2007.12.11 第41回「夢を抱く」

 テレビをつけた瞬間、そこがどこの会場であるか分からなかった。サイドラインに並ぶ見慣れぬ広告ボード、会場の雰囲気。戦っているのは浦和レッズであったが、紛れもない国際試合である。TVの実況陣も、普段のJリーグでは考えられないほどの偏向応援を繰り広げている。なにせ勝てば、ACミランとの準決勝が待っている。TV局サイドとしてはドル箱のレッズというソフトを失ってたまるかという思いがあったであろうが、我々Jリーグファンも、Jリーグの看板にかけて負けて欲しくなかった。そして、日本中を歓喜に包む華麗なゴールラッシュ。華やかな、あまりに華やかな舞台であった。

 一方、今期J1リーグ16位のサンフレッチェ広島は、その華やかな舞台から遡ること2日、ホーム広島ビッグアーチに、J2リーグ3位の京都サンガを迎えていた。こちらは来期J1リーグ、18個目の椅子をかけての戦いである。上を目指す京都はともかく、広島としては、勝っても得るものはなく、負ければ失うだけの罰ゲームのような1戦であった。
 それこそ無責任を承知で言わせてもらえば、どうして広島がこの罰ゲームに参戦しているのか分からない。Jリーグ屈指のツートップに加え、高精度のクロスを左右から繰り出す駒野、服部の両ウィングバック。中央には、今、ブレイク中の柏木、青山を擁し、バックラインだって名手が並ぶ。やろうとしているサッカーは明確だし、陣容を見比べれば、新潟より順位は上どころか、優勝争いにだって加わってもおかしくないのだ(ちなみに2005年は7位だ)。
 しかし、広島はこの罰ゲームに敗れた。つくづく初戦落としたのが痛かった。一方的に攻めるものの、結果以外は何も意味を持たない京都は、ゴール前に壁を築いて、ひたすら跳ね返すだけのサッカーに専念した。ゴールポストを叩くシュートが3本もあったが、サッカーに判定勝ちはない。A代表を含む、各年代に代表選手を送り込んでいる名門サンフレッチェ広島がJ2リーグに降格した瞬間であった。

 新潟のサポーターならばよく知っていよう、この2チームは、かつて、J2の舞台でも戦ったチームである。浦和は2000年、そして、広島とは2003年に激しい昇格争いを繰り広げたのが記憶に新しい。ともに、2位通過という死闘のシーズンを送ってJ1に返り咲いたのが、あまりの好対照なコントラストに驚きを禁じ得ない。実に非情である。

 さて、新潟である。肝心要の鈴木監督が来期も指揮を執ることがオフィシャルでも発表されたが、エジミウソン、シルビーニョという二人の核が抜けた来シーズンがどのようになるのか誰も分からない。今季リーグ6位の成績は立派である。終盤の尻つぼみも確かにあったが、18チーム中6位の成績を上げたことは紛れもない事実であり、J1昇格直後、正直名前負けしていた感もあったチームにもがっぷり四つで戦えるようになった。今季、Jリーグで6番目に強かったチームなのだ。

 しかし、成績的には順調に上昇カーブを描いている新潟であるが、チームを取り巻く問題点がないわけではない。詳しくは、今週末に行われるサポーターの大忘年会の第一部でも報告されるかもしれないが(詳細はこちら→http://www.fiebre-futbolera.jp/award2007.html)、チームがさらに上を目指すに当たって、超えなくてはならない壁があると思う。

 特定の親会社を持たない新潟のようなクラブが、一番頭を痛めるのが、それがそのままクラブ規模にとって代わる予算の確保である。そして、資本主義社会の世の中では、悲しいことにそれが順位に直結することが多い。親会社からのウルトラCや、関連会社からのスポンサードが期待できない新潟は、入場料収入が大きな頼りだが、その入場者に陰りが見えてきたことは誰もが否定できない事実であろう。Jリーグが公開している各クラブの経営状況の資料を見ていただけばわかると思うが、常時優勝争いできるようなチームになるためには10億円ほどのお金が足りず、手を尽くした感のある今、正直、頭打ちであるのが現状かもしれない。

 これまで、新潟は資金不足との縁がきってもきれない仲だった。例えば、明らかに資金難だった01~02シーズン、豊富な資金力を有するチームに果敢に昇格争いを挑んだが、それが可能だったのは、その足りない資金分を補うプラスアルファがあったからだと思う。それは何か。新潟のおとぎ話と称された夢ではないか。地域全体が夢を抱いたおかげで盛り上がり、そしてチームを含めて一つになった。スタジアムの至る所に、資金の足りなさをカバーする情熱が渦巻いていたのだ。

 来期はJ1昇格後5年となり、J2の在籍期間を上回ることになった。J1の強豪クラブとして定着するのか、それともJ2と行き来を繰り返すエスカレータークラブになるのか。このオフシーズンに、サポーターも原点に帰り、大きく変わろうとしている動きがあると聞く(前述の大忘年会でアナウンスがあるとか)。夢は持たなくてはならない。サポーターが夢を持つのはもちろん、クラブにも夢を大きく持ってもらいたい。夢を売る商売の会社のスタッフが夢を持てないようでは、サポーターや選手に対しても失礼だ。

 資金不足がなんだ。入場者が減少傾向にあるなんてなんだ。僕らにはかつて、それを補って余りあるパワーがあったはずだ。再び、夢と活気に溢れる力強い新潟になれるかどうか、来シーズンは大きな試金石だ。サポーターはもう準備が出来ている。

2007年12月11日 16時47分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。