2005.06.20 めざせ3級審判

 過去のコラムにおいて、辛辣な審判批判もしたことのある私だが、こうは見えても、日本サッカー協会に登録されている登録審判である。しかし身分はいまだに4級。僕の所属する県サッカーリーグではチーム帯同審判として3級以上を義務づけており、それもあって、この春から3級昇級試験にチャレンジしている。リーグ中断中ということもあり、今日は趣向を変えて、この話をしてみたい。

 まずは4級と、3級の違いから説明しよう。4級が原則、講習を受講するだけで資格が得られるのに対し、3級になるといっぱしの関門が用意される。用意されている関所は3つだ。筆記テスト、体力テスト、実技テスト。筆記も決して侮れず、単純な択一式だと思ったら大間違い。様々なシチュエーションが提示され、それに対して主審のとるべき処置を記述させるため、ルール全般について、なんとなくではない、しっかりとした知識が要求される。体力テストは50m走と、12分間走の二つ。2級、1級になるとさらにハードルは高くなるが、3級はそれぞれ、8秒以内、2,200m以上と、まぁ、日常的にスポーツをしている人なら普通にクリアできるレベル(余談だが、12分間走はJリーグのトレーニングでもよく取り入れられており、一度自分で走ってみるとJリーガーの持久力の凄さが分かるのでお勧め)。これらの合格者に対し、夏に実技テストが行われる。高校生の大会に審判として参加させてもらい、それを試験員がつぶさにチェックするのだ。
 これらを経て、ようやく3級審判となれる。こうしてみると、3級になって初めて審判員と認められること、さらに高いハードルを越えていった2級、1級、S級審判の偉大さが分かろうというものである。

 さて、J1リーグが中断中で、さぞかし暇を持て余しているサポーターも多いであろうが、社会人リーグは真っ盛り。昨日の日曜日もリーグが開催され、私の所属するジャミネイロも某強豪チームとの対戦が組まれていた。この試合がメインなのは間違いないが、私にとってはその前の試合も極めて重要であった。なぜなら、この試合において、主審として笛を吹くことになっていたのである。練習試合等で笛を吹くことはあっても、公式戦では初めて。そのため、前日の夜も、ワールドユースの中継を見ながら、競技規則の復習に余念がなかった(実は半分以上寝ていたのは内緒だ)。

 いよいよ試合がやってきた。副審の2名と打ち合わせをすませ、僕を含めた審判団を先頭に、両チームを引き連れ、センターサークルに向けて行進していく。音楽がないのが残念だが、なかなか気分がよい。コイントスを前に、両チームに簡単な説明を加えた。すなわち、
「オフサイドは、ちょっと遅れて出すこともあるので了承してください(最近の傾向として、オフサイドプレーヤーがプレーに干渉しているかの判断は、しばらくプレーを流して判断するものとされている)」
「審判への不満を含め、相手チームを罵るような言動は慎むように。社会人プレーヤーとして自覚を持ってプレーをしましょう」

 県リーグも、下位レベルとなると、審判のみならず、競技者自身のレベルが劣ることもあって、試合によっては非常に荒れる傾向がある。キックオフを前に、こういった説明をすることで、プレーヤーの自覚を促すと共に、審判への信頼感を植え付けようという狙いがあった。

 それが功を奏したのかどうか分からないが、両チームのマナーが良かったこともあって、さしたるクレームもトラブルもなく試合は無事終了した。審判経験の長い友人に、「ファールの笛の音は短く、大きな音で吹くように」とアドバイスを受けていたが、これも良かったのであろう。審判の笛が自信無なさげだと、プレーヤーに不信感を持たれてしまう。相変わらず、空中戦での競り合いにおけるファールの判定は苦手だが、試合の流れを損ねないという前提で、自分なりの基準をもって自信を持って吹けば万事OKということが分かった。
 むろん反省点がなかったわけではない。恥ずかしながら第4審判に指摘されて気づいたのだが、前半、副審の出すオフサイドの旗をしばし見過ごしていたという。ボールのあるところばかりに目をとられ、視野が非常に狭かったのは、情けない。ぼっとして、アドバンテージを受けているチームのプレーを止めて、FKで再開させてしまったこともある。この辺が、3級審判見習いの痛いところ。夏の実技試験に向け、大いに反省し、改善せねばならないだろう。

 僕が主審を務めた試合はこのように無事終了したのだが、肝心の僕らの試合がちょっとトラブル含みだった。相手チームに先制点を奪われたのだが、その前に副審がオフサイドの旗を上げていたらしい。副審はそれが正しいとするなら、そのまま上げ続けているべきであった。そして主審がそれを採用するなら、遡ってゴールを無効とするだけなのだ。
 両チームから、掴みかからんばかりの形相で詰め寄られた副審は蛇に睨まれた蛙のようにフリーズしている。そして、脅された子供のように、弱々しく再びフラッグを上げ、ゴールは無効になった。僕らのチームとしては助かったが、一番あってはいけないことだった(その後の彼は、プレーヤーからの信頼を失い、可哀想なぐらいピヨっていた)。

 また、これは余談になるが、全身赤の服で決めた我がチームのGKが、エリア外で、ミッキー・ロークを彷彿とさせる伝説のネコパンチで1発レッドとなった(決定的な得点機会の阻止)。主審が胸ポケットから、ごそごそとカードを探していた10秒間は、彼のことをほとんど知らないのに断言していいのか分からないが、おそらく彼の人生の中でもハイライトに位置づけられるほどの注目度だっただろう。

 審判は奥が深い。自分の手綱さばき一つで、良いゲームを壊すおそれがあると共に、逆に悪いゲームを素晴らしいゲームに変えることが出来る。決して主役に立ってはいけないが、好試合に欠かせない陰の演出者である。
 また、僕が裁いた試合など、元Jリーガーがプレーしており、彼のプレーを間近で見れたことは非常に勉強になったし、楽しかった。

 ヤジばかり飛ばしているのではなく、皆さんも一度審判の世界に足を踏み入れてみてはどうだろうか。現状では、オフサイドをきちんと理解できている人も少ないと思う。サッカーがより楽しくなるのは請け合いなのだが。

2005年6月20日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。