「良い芝居は観客が育てる」という言葉がある。
舞台の上で演じる役者を厳しい目で見てくれる観客がいるから緊張感のある演技が生まれ、芝居後には拍手で芝居に対する感動の度合いを舞台上の役者に直接伝える。
もちろんそれなりの感動にはそれなりの拍手が、心に響くような感動であれば立ち上がって激しい拍手が送られる。その拍手が次の芝居へのモチベーションにつながる。
観客は特別なことをしているわけではない。心から芝居を楽しみ、正直な反応を示しただけだ。テレビでは役者から視聴者へ一方通行でしかないが、舞台では役者から観客だけでなく、観客から役者への反応もダイレクトに伝わる。この双方の交流がライブの醍醐味であり、観客が芝居を育てることにつながっていくのだろう。
サッカーも同じだ。ピッチの上の選手が見せるパフォーマンスに直接反応できるのが生観戦の醍醐味である。芝居と違うのは終わったあとだけでなく、ひとつ一つのプレーに細かく反応することもできることだ。大きな拍手や大歓声は選手のモチベーションを引き出し、厳しい野次やブーイングは選手に緊張感を与える。
もちろん意味不明な野次は選手のやる気を失わせることにもなる。テレビでサッカーを見るなら黙って座って見ているのもいいが、スタジアムに来るならもっとプレーへの反応をしてほしい。それが選手のモチベーションにつながる。
反応ができるということはプレーをきちんと見ていることの証明であり、ピッチ上に緊張感も生まれる。決勝戦や昇格や降格のかかった試合は観客席に緊張感があるから、だらけた試合になりにくい。逆に消化試合は観客席に緊張感がないから余計にだらけやすい。
ではどんなときに拍手をすればいいのか。適当な言い方ではあるが周囲の反応に合わせて拍手するというのが一番やりやすいと思う。誰も拍手してないところにいきなり拍手するのは抵抗がある人も多いだろう。でも拍手は惜しまないでほしい。声を出しすぎればノドが痛くなるが、拍手はしすぎても手の平がかゆくなるくらいで済む。
その拍手が選手のモチベーションを引き出し、緊張感のある試合を引き出し、何より自分自身が面白いサッカーを見ることができる。今よりももっと多くの拍手と大歓声で応えれば選手はもっと良いパフォーマンスを見せてくれるに違いない。観客もチームの力になれるし、クラブの強化の力にもなれる。クラブを育てる、意識を変えるとサッカー観戦がもっと面白くなるかもしれない。
2006年5月22日 岡田 正樹
PROFILE of 岡田 正樹
おかだ まさき 1978年生まれ。新潟出身。アルビレックス初観戦は99年のJ2開幕戦から。以来、ほとんどの週末をスタジアムで過ごす生活を送る。6歳からサッカーをはじめ、現在は新潟県リーグASジャミネイロでプレー。好きなサッカーの楽しみ方はやること、見ること、書くこと、読むこと、考えること。