2005.09.26 白いハンカチ

 予想通りのブーイングがスタジアムを包んだ。J2時代も含めてあまり記憶にない、ストレートな3連敗。抜群に強かったホームでもついに連敗となったが、それ以上に、シュートすら持って行けない展開に歯がゆさを感じていたに違いない。
毎試合、自分たちの思うようにならないのはサポーターも重々分かっていること。それでも、厳しい現実を目の当たりにし、突き動かされるように出た苦渋の行動だったのだろう。力無く頭を垂れ、引き上げる選手たち、ブーイングの中にもわずかに聞こえる拍手。ちぐはぐな悲しい光景だった。2階席にいた僕の前では、なんと、初老の婦人が立ち上がって抗議の白いハンカチを振っていた。

 広島は5月のアウェイゲームで屈辱的な大敗を喫した相手である。反町監督は同じ相手には決してやられない。必ず返り討ちにしてきた。そして、広島に対しては、とりわけホームで無類の相性の良さを発揮していた。サポーターにもなんらかの慢心があったかもしれない。
 午前中の雨が上がった新潟スタジアムは、相変わらずの曇り空であったが、それがピッチ上の緑色を一層鮮やかに映しだし、満員のスタンドと相まってイングランドの趣を見せていた。プレミアリーグのような、スピーディでアグレッシブな戦いを期待したいところである。
 新潟はエースのエジミウソン、3バックの一角を占めていた萩村が出場停止で、フォーメーションを含めどのようにいじってくるかを注目していたが、スタメンに真新しい顔はなく、エジミウソンの位置にファビーニョをあげ、出場停止の二人に代えて、寺川、喜多を入れたにとどまった。広島の小野監督も策士として知られ、相手のストロングポイントを押さえてくる監督である。このスタメン、小野監督にはどのように映ったのであろうか。

 試合結果は冒頭で書いたとおりである。C大阪戦に続いて、相手の手のひらで踊らされたような試合であった。プレミアリーグの華ともいうべきシュートシーンも確かに多かったが、これは一方のチームのみで、バランスを著しく欠いた。新潟の完敗である。
相手のストロングポイントを消し、一方で相手のウィークポイントを狙うのは戦術のイロハ。広島の屈強なセンターラインによって、優作のポストプレーがことごとく潰されると、ファビーニョを中心にシャドー的に裏を狙う新潟の攻撃は全く形をなさなくなった。それならば、と、サイドからの攻撃で揺さぶりをかけたいところであるが、最終ラインに構えるジニーニョは対人能力だけでなく、カバーリングもさすがで、ワンツーでようやく抜けだし、サイドを奥深くえぐった寺川、慎吾のセンタリングもことごとくブロック。新潟はシュートすら打たせてもらえない。さらに、中盤でタメ、アクセントをつけるべく、岡山を投入するが、岡山も激しいプレスの中、思うようにプレーできず、状況を変えることはできなかった。
 個人をとやかく言うのもどうかと思うが、この日のリマは良くなかった。キック精度も欠いていたが、新潟のウィークポイントと言うべき、リマへの背後のスルーパスを通され失点すると、焦りからかプレーも独りよがりなものが多くなり、攻撃のリズムを崩していたように思える。

 と、結果論的に、個人名や戦術をあげて攻撃するのは簡単であるが、ようはJ1二年目を迎え、上位を伺おうとしている新潟が研究され尽くしているということであろう。正直、ピッチを俯瞰できる2階席でのんびり見ていた私でも、手持ちの駒で、この日の広島相手にどうやってゴールをあげるか、アイデアすら浮かばなかった。
 しかし、こういう八方塞がりなときこそ必要なのが、非科学的な精神論、無駄な頑張りである。正直、今の新潟で一番欠いているのがこれではないか。チームをプレーで、口で、鼓舞できるリーダーがピッチ上にいない。選手は、どうして滅多にブーイングをしない新潟のサポーターがブーイングを行ったのかを考えてみて欲しい。単に負けたからといって、その腹いせにブーイングをするほど新潟のサポーターは愚かではない。ピッチ上で悔しさも、がむしゃらの努力もみせず、漫然と敗れ去ったふがいなさにブーイングを行っているのだ。
 次節、負傷者、出場停止者が出る関係で新しい血が導入されよう。彼らがもたらすプラスアルファ、及びレギュラー組の奮起に期待したい。

 さて、そんな大事な次の対戦相手は因縁の川崎戦だ。大宮と並んで、新潟が一番多く試合を行っているチーム同士の一戦。新潟は何故か川崎に相性が良く、もう数年前になるが、川崎がオフィシャルで「青心統一」という対新潟戦用のTシャツを作ったのに対して、サポーター間で、カモシャツと呼ばれる対川崎戦用Tシャツを作成したのを思い出す(今も持っている人は何人ぐらいいるんだろう)。現在の両チームの勢いからいけば、まさに笑止の一言だろうが、こういうときこそサポーターもカラ元気が必要なのかもしれない。
 次節、選手、サポーターとも久しぶりに燃える「絶対負けられない一戦」になりそうだ。もちろん、僕も川崎へ向かいます。

2005年9月26日 浅妻 信

PROFILE of 浅妻 信
あさつま まこと 1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。