この夏、仕事で大阪へ出張した。仕事はともかく「そんなの関係ねー」とそのついでに高校野球観戦をしてこようと時間をやりくりして甲子園へも向かった。
その日東京は、朝っぱらから34℃と泣きたくなるほどの暑さ。「甲子園はどんだけ~!」と思いつつも、今日は準決勝、前売りはないので当然当日券を購入しなくてはならず、朝早い新幹線に乗り一路西を目指す。
準決勝のカードは、第一試合・広陵×常葉菊川、第二試合・日大長崎×佐賀北とどちらもとても面白そう。早起きをがんばった甲斐もあって1塁側の特別自由席券を手にすることができた。ほっ。
本当は屋根のある内野席に座りたいのだが、チケットはすでに完売。今日は平日なのになんでこんなに大人がいるんだ! と叫んでみる。まぁしょうがない、私も大人だ!
今回は1塁側に陣取る高校の応援団とゲームを楽しむことにしよう。スタンドはもうチリチリに熱せられていて、狭い椅子に座るとお尻が痛い。目玉焼きになった気分だ。灼熱の甲子園はテレビで見ると行くとではえらい違いだ。
今日は中野洋司選手の出身校でもある佐賀北に期待して試合をみよう。失礼だけど、まったく期待されてなかったこのチームがあれよあれよと勝ち上がって、この日はもはやベスト4。いなかの子供達がみんなの力を集めて集めて勝ち上がってきたドラマがある。この目で見たわけではないが、きっと、あぜ道を自転車に乗って練習から帰るナインの姿があるのだろうなと勝手に想像して早くも感情移入だ。
第二試合、1塁側にその佐賀北がやって来た。翌日の決勝で、劇的な逆転満塁ホームランで優勝までしてしまうこのチーム、応援席はこの日も燃えていた。「あれやらないのかな、踊りながらやるやつ」とスタンドのあちらこちらではその応援席をやたら気にしている。私も毎夜、「熱闘甲子園」を欠かさずに見て、どこの高校の宿舎での夕食がしゃぶしゃぶだったとかチェックしているが…はて? このスタンドがワクワクする応援とはいかなるものなのか…? 興味シンシンでアルプススタンドを覗き込んでみたのだった。
野球はサッカーと違い攻守がはっきりとしている分、応援のウマヘタがとても顕著で分かりやすい。たとえば、常葉菊川の応援団はかなりのハイレベルだった。応援が洗練されていて、ブラスバンドがとても上手い。演奏しているスコア自体は馴染みのある曲ばかりなのだが、選手に対する間(合いの手)といい、テンポといい、聞いていてこちらも自然と乗ってくる。これはテレビでは味わえない一体感だった。さすが春の王者だ。ブラバンの力量と甲子園は正比例しているのだろうか、そういえば東京都予選で出会った耳を疑いたくなる弱小高校のスタンドのような光景はここにはない。ちなみにその高校はどうやってもワンフレーズしか演奏できないという力量でチームもあっさり負けました。
「カキーン!」
金属音とともに、佐賀北の選手がヒットで塁に出る。沸き返るスタンドから烽火があがり、太鼓が村祭りのお囃子をハイテンポにしたような、妙なリズムを刻み始めた。
ドンドコドコドコ・ドンドコドコドコ~ いけ! いけ! いけいけいけいけ!!!
スタンドが地鳴りのような、地すべりのような。よく見るとリズムに合わせてステップを踏んでいるのだ。老いも若きも踊っている! 斬新だ、これはすげーや!!
もうアルプスの全員が歌い、叫び、踊っている。
「さあ、行け!」と全員が選手を後押しする声のカタマリ。
「さあ、攻めるぞ!覚悟しろよ」と相手を威圧する熱気。
『太鼓のリズムに声援だけ』というシンプルな応援がエンドレスに続くのだが、なんともチカラ強く、心地よい。リズムは甲子園全体を包み込む勢いがあった。
ドンドコドコドコ・ドンドコドコドコ・ドンドコドコドコ・ドンドコドコドコ いけいけいけいけいいけいけ!!!
翌日の決勝で観客がスタンドが、いや甲子園全体が佐賀北に加勢した気持ちがよ~く分かる応援だったのだ。「いいもの見たぞ!」と素直に感じた一日だった。この夏見たものでは「欽ちゃん」といい勝負だろう。
帰り道、お土産に「甲子園」とデカデカと書かれた巾着袋を購入。エルメスなど問題ではないセンスのよさにまたまた感激する。ちなみに佐賀北グッズはすべて売り切れ。スタジアム周りでは佐賀北応援団からオリジナル応援タオルをもらおうと、野球小僧たちが奔走していた。W杯の試合後にタオルやユニフォームを交換しているのと同じ光景だった。
そして26日、新潟で清水戦を見る。当日はサポーターズCDの発売日ということもあって、サポーターのテンションも高いのだろうと、今や応援団ウォッチャーと化している私は厳しい視線で改めてスタンドを観察する。我等がアルビレックスの応援はやはりすばらしい。「さあ、行こうぜ!」と歌い、ボールの行方とともに声を上げる。灼熱の甲子園に出かけないと見ることができないような熱気が、ここにはいつもある。老いも若きも一生懸命だ。
佐賀北を奇跡の優勝に導いたあの応援は、日本人の我々にはジャストフィットしているように思った。ドーンという太鼓の音色に馴染みの深い我々には、体内音として反応するようにできているのだろう。その音に合わせてみんなで「行け」と叫ぶ。アルビレックスのゴール裏でも取り入れて欲しいなー、あの応援。
実際に戦っていない私が「よーし! やってやる」と思うのだから、フィールドにいる選手が鼓舞されないわけがない。改めてアルビレックスの応援を見ていて昂ぶる幸福感を感じた。太鼓の音に「頑張れ!」のメッセージを感じる応援は、試合さえも左右してしまうパワーがある。ボールが思いにつられて転がる。
決してサンバのリズムではない、それじゃ乗れないのだ。
2007年8月27日 23時06分 小早川 史子
PROFILE of 小早川 史子(こばやかわ ふみこ)
「これだけのことを、本とか何かに残しましょうよ。」と彼女がフッと言ったのが、2003年に発売された「ニイガタ現象」の制作の始まり。ソフトな外見に似合わず、いつも大正解をピンポイントでズバリ言い放つ預言者のようなお方。このコラムでの「ナビスコファイナル進出」も預言が現実となるのか。帝釈天で産湯につかった親子3代東京生まれの江戸っ子サポーター。落語(春風亭昇太)と6大学野球が大好き。