2007.05.08 第10回「もし、鈴木監督が戦国時代に生まれていたら」

 巷では、日本海に浮かんでいただの、北海道に行ったなどの景気のいい話も聞こえていたが、僕のゴールデンウィークは文字通りのサッカー漬けであった。天候にも恵まれ、金もほとんど使わずして充実の日々を過ごせたように思えるが、むろん、これは僕と息子だけの一方的な感想に過ぎず、妻がどう思っていたかについては不明である。
 この休み中、息子の大会を中心に、実に多くの試合を観戦したが、指導者の色が濃く出るジュニアだからなのだろう、やっているサッカーの特徴がチームごとにはっきりしていて面白かった。この点について言えば、ピラミッドの頂点に立つJリーグよりも上だ。本来は、より個性があるべきプロリーグであるが、情報の共有、そして何よりも勝利の追求によってある程度、トレンドが生まれてくるのは致し方ない。そんな中、個性が立っていると認められるチームの一つが甲府である。ワイドに開いた3トップに、高い守備ライン。全員守備、全員攻撃の激しい運動量に加え、徹底的にショートパスで繋ぐ。サッカーづくしのゴールデンウィークの最後を飾ったのはやはりサッカー。新潟がホームに甲府を迎えた試合は、結果的にも、内容的にも見応えがあるものだった。

 前半は防戦一方だった。甲府の高いライン、中盤の激しいプレスに対抗するためだったのだろう、中盤でしっかりゲームを作るよりも、ダイレクトプレー、とりわけ、エジミウソン、矢野のスピードを生かすべく、背後の広大なスペースを狙うロングボールを多用したが、ボールの出所に対する甲府のプレッシャーがきつく攻撃は形を作れない。それどころか、高い位置でサイドに張るウィングとサイドバック、これに中盤の選手が加わるトライアングルで、サイドで簡単に数的優位を作られ、何度も危ない場面を迎える。そうこうしているうちに、茂原の見事な個人技であっけなく先制されてしまった。
 この試合の前哨戦となったナビスコカップの試合でも分かるとおり、アグレッシブな守備をする両チームのプレースタイルの影響なのか、この試合もファールが非常に多く、前半から、イエローカードが連発する荒れ模様だった。うる覚えだが、日本代表が世界で戦う強さを身につけるために、激しいプレーと非紳士的なファールは明確に区別し、国際基準で前者は極力流すのではなかったか。今後もこのカードは、笛が吹かれまくる試合を見せつけられるのか。余談だが、ナビスコの家本主審同様、あまりにも審判が目立ったので、気になって家に帰ってから鍋島主審のプロフィールを調べてみたが、坂本の大学時代の1年後輩にあたるようだ。試合前の大型スクリーンで、坂本と談笑する姿をカメラが捉えていたが、これで納得である。もっとも、見て分かるとおり、全く先輩の威光は通じなかったようであるが(苦笑)。

 さて、徹底したロングボール作戦は、相手GKの退場という形で実を結ぶ。裏に抜け出したエジミウソンを、相手GKがエリア外で引き倒し一発レッド。システィマチックな甲府のサッカーは10人になるときつい。後半になると、新潟が一方的にペースをつかみ、意固地なまでになおもラインを高く保持し続ける甲府の裏を、前半同様、エジミウソンと矢野を走らせ続けた。エジミウソンと矢野という、リーグでも屈指の身体能力を有するコンビと90分走りっこさせられる甲府のディフェンスラインにしてみれば、勘弁してくれという感じだろう。また、前半あれほど効いていた中盤のプレスはまったくかからなくなり、シルビーニョが自在に攻撃のタクトをふるいだす。かくして、昨年の川中島の決戦同様、新潟の華麗なゴールラッシュが始まったのである。これを相性と呼ばずしてなんと言おうか。信念を貫き、常々真っ向勝負を挑んでくる武田軍のおかげである。鈴木監督が戦国時代に生まれていたのなら、長野県は今、新潟かもしれない(笑)。いずれにせよ、両チームのやりたいサッカー、狙いを含め、ベンチの駆け引き、頑固さ、勝負のあやなどが全て見られた面白いゲームだった。むろん、これは新潟サイドからの一方的な感想に過ぎず、甲府サイドがどう思っていたかについては不明であるのだが(相当つまらなかったと同情する)。 

 最後に、深井がゴールを決めたのは本当に嬉しい。個人的に一番期待をしていた選手でもあるが、僕だけでなく全員がそう思っていたのは、彼がピッチに登場した瞬間から繰り返されたスタンドからのコールの多さにも現れていたと思う。ちなみに、前号に登場した「ベテラン観戦者」のうちの母も、試合後、「深井になんとかしてゴールを決めさせてやりたかった」と得意げに言っているので、これはもう新潟サポーターの総意と言っても良いだろう。ただ、試合後、「これでようやく新潟の一員になれた」のようなコメントを残していたようであるが、これだけはいただけない。なぜなら、僕がコラムの〆に使おうと思っていたことであり、これを先に使われた僕は、落としどころがなく、今もこうして苦しめられているのだから。
 試合前の内田のセレモニーにも感動した。ああいうシーンは心がぐっと来る。先輩の内田同様、深井も新潟に染まっていくだろう。

2007年5月8日 12時18分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。