2007.07.17 第20回「プレイバック2001(2)」

 毎年そうだが、開幕戦を迎える高揚感、期待感というのは何事にも代え難いものがある。とりわけ、この年の期待感は大きかった。新指揮官はビジュアルにも優れている上、口をついて出てくる言葉はどれも洗練され、説得力十分。これを期待するなというのが無理、いや結果が出なかったらあんた詐欺師でしょう、というようななものだ。

 しかし、開幕戦は悲惨だった。いや、開幕戦だけではない。あまり知られていないが、反町新潟の序盤戦は、結果が出ないだけでなく、内容に関しても、何の期待も見いだせないかのようなバラバラの低飛行状態だったのだ。反町監督のヤンエグ風の出で立ちが、より詐欺師に見えたのは僕だけではあるまい。特に、前年、ボランチとして機能していた寺川が右サイドアタッカーとしてまるで機能していなかった点が、サポーターに徹底抗議される。ある試合後、ゴール裏から繰り出される「ボランチ寺川」コール。その数ヶ月後、寺川は、J2きってのサイドアタッカーとして、新潟のフィーゴを襲名するのだが、その姿をこの時点で確信していた者は、反町監督か、タイムマシーンに乗ったビフ(映画バック・トゥ・ザ・フューチャーⅡより)ぐらいだっただろう。反町監督の方も、サポーターの声など全然聞こえていないと思いきや、その年暮れのどこかのインタビューで、サポーターに文句を言われたことをしっかり覚えていて、「君達、あんなこと言っていたけど、どうよ」みたいな得意気な顔をしていたのをよく覚えている。前号でも書いたが、当時は、サポーターはもちろん、反町監督もみんなが手探り状態だった。

 序盤の新潟、いや、この年の新潟を引っ張った1人が、氏原良二(現草津)である。名古屋から、自分の意志で新潟に移籍してきた氏原は、その時点でサポーターの心をとらえたようなものだが、彼の感情むき出しのパフォーマンスは、それまで大人しい選手が多かった新潟の中において、ひときわ目立つものだった。ホームの開幕戦となった山形戦で、終了間際に同点ゴールを決めた氏原は、そのままの勢いでゴール裏に向かうと、渾身のガッツポーズを繰り返し、単なる勝ち点1を、まるで優勝したかのような大騒ぎに変えたものだ。また、いつぞやの試合で、興奮のあまり試合後スパイクをスタンドに投げ込んだそうだが、当時はスパイクは自腹購入だったので、さぞかし痛い出費だったはず、と、その「片足」を持っているサポーターは述懐する。
 サポーターに愛された氏原は、当時としては革新的な、氏原ゴールという個人ソングを提供され(蛇足ながら作ったのは俺だ)、さらに、志村けんの「変なおじさん」とレッズの福田が混ざったような不思議な振り付けをつけられる。一部で、ウジダンスと呼ばれた、壮観なゴール裏のダンスが始まったのはこの年だ。

 さて、この年もそうだが、当時は僕なりに、なんとかみんなにアルビレックスに興味を持ってもらおうと、ささやかだが、色々な試みをしていた。その一つが、選手名鑑の作成であった。とても、オフィシャルにのせられないような、ふざけた記述が並ぶが、今、読み返してみても、選手の特徴をよくとらえた、当時の記憶が甦るなかなかいい文章だったように思える(ほんとか?)。そういうわけで、当時の選手に対しては本当に失礼千万だが、一部の選手を抜粋して掲載しよう。今週はディフェンダー編。

CB#3 セルジオ(ブラジル ジュオン23高 ジュベントス 184cm 26歳)
  外国人に泣かされる新潟にあって、今年3年目を迎える優良外国人選手。日本語もかなり習得し、「アガレ~」とラインコントロールも任されている知性派である。
  とはいえ、フィールド上の彼はまさにアニマル。圧倒的なフィジカルの強さで、敵エースを徹底的にマークする。相手が強ければ強いほど燃える頼もしいガイだが、序盤でイエローをもらったときは要注意(かなり頭に血が上っている)。チームメイト、サポーター共、一致団結して彼の沈静化に努めなくてはならない。
 サポーターの声援に常に笑顔で答え、情けない試合には涙を見せんばかりに謝罪する。チームメイトを削った相手には容赦ない報復(ex.昨年のベルマーレ小松崎)、ゴールを決めた際の原始帰り(ex.新潟スタジアム鳥栖戦)等彼の人間的魅力は尽きず、子供達にも大人気の越後の壁である。興奮すると前線にわさわさと上がり、スタジアムの歓声と悲鳴を一身に浴びる。

CB#4 柴暢彦(大阪府 福岡大 大分トリニティ 179cm 27歳)
  不運の選手である。元々のレギュラーCBであったが、負傷欠場中に大学後輩の高橋にポジションを奪われ、その後はすっかりバックアップ。出場しても、慣れないSB、ボランチ、さらにはパワープレー用のFWとして使われるなど散々。悪いことは重なるもので、サポーターが用意した彼のサポートソング「男shiba」も未発表のうちに、神田選手に持って行かれてしまった。久しぶりに先発出場した第19節水戸戦開始僅か数分において負傷退場。スカパーで観戦していた知人の話によると、「It’s Soul」が流れた瞬間、ピッチに倒れ込んでしまったようで、これにより柴出場時に限られるものの、「It’s Soul」の封印が決まってしまった。まだまだあるぞ。ボランティアで福祉施設を訪れたとき、施設が用意した垂れ幕が、「歓迎、さん」になっていたとか。。。
 負傷により今期の出場がほぼ絶望になってしまった彼だが、ちょっぴり強面の外観に反して、「話しかけられると嬉しい・」 という関西人気質も持ち合わせているので、是非積極的に彼に話しかけて、彼を慰めて欲しい。

左SB#5 神田勝夫(新潟県 東京農大 横浜Fマリノス 182cm 35歳)
 地元新潟の生んだスタープレーヤーであり、全盛期のC大阪時代は左サイドバックながらアシストを連発。日本代表にまで上り詰めた。横浜マリノス退団後は故郷にて信用金庫勤務が噂されたが、現役を続行。その名声は小学生にまで浸透しており、「おじさま」という尊敬と敬愛に満ちた可愛い呼び声がスタジアムのあちこちで飛び交う。現在も、強烈な左足をいかしたクロスは健在で、新潟の得点パターンの一つになっているが、反面、彼が位置する左サイドが相手の格好の狙い目となっているのも事実。この点に関しては「いずれにせよ点に絡むんだからやっぱり凄いんだろう」と前向きに考えたい。
  同年代のファンをして、「俺の腰が鳴りそう」と言わしめる、危険なセクシーな切り返しは木澤なき今、新潟の一つのハイライト。35才になった今も、炎天下のピッチに立ち続けるスタミナは驚異的であるが、スローイング時の手が震え始めたら要注意。

CB#13 新井健二(群馬県 立正大学 182cm 23歳)
 武田同様、立正大から今年入団したルーキー。その身体能力の高さ、1vs1の強さはキャンプ時から評判を呼び、開幕スタメンを勝ち取ると、以降レギュラーの座を手中にした。
 強烈な左足のフィードと高い守備能力を備えるが、1試合に1回とんでもないポカをやる全く目を離せないスリリングなDF。そのポカが失点にことごとく直結するなどのアンラッキー、負傷が重なって、現在プロの壁にブチあたっている。真面目な好青年である彼のこと、怪我が癒えた曉には、一皮も二皮もむけたプレーぶりでレギュラーを再奪取して欲しい。

CB#14 高橋直樹(福岡県 福岡大学 178cm 25歳)
 そのベビーフェイスと、誠実さで女性ファンの心を捉えて離さない新潟きってのアイドルDF。実力の方も抜群で、昨チームの中では最もJ1に近い選手、と評されていた。
 今シーズンは怪我により出遅れたが、ここにきてエンジン全開。レギュラーの座を新井から奪い返すと、徐々にではあるが本来のパフォーマンスを取り戻しつつある。カバーリング能力に優れるほか、身長の割に空中戦に極めて強いのは特筆もの。並み居る大型FWに決して負けることなく、センタリングをことごとく跳ね返す姿は誠に頼もしい。
 サポーターからDFリーダーとしての自覚を期待されているが、優しい性格が邪魔するのか、ピッチ上の彼は闘将とはほど遠い。女性ファンを捨てることになるが、思いきって眉毛を剃り落としてみるのも手かもしれない。

2007年7月17日 14時38分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。