2007.08.28 第26回「Fly」

 実に6作目となるサポーターズCD「FEEEVER2!!」が、先日26日の清水戦会場で発売になった。FEEEVER2!!というタイトルにピンときた人が多いと思うが、2002年に出したFEEEVER!!の流れを幾分継いだ、いわば原点回帰したような作りになっている。余計な装飾(アレンジ)をそぎ落とし、ものによってはアカペラのみ。また、例年16Pからなる豪華なブックレットも簡素化した。中身は質実剛健。しかし、ジャケットは昔からのコンセプト通り、カラっとお洒落に。
 その他の共通点としては、一般流通をやめ、スタジアムのみの販売にしたことである。一般流通させると、流通経費がグンと跳ね上がる。販売ルートは極めて限定されるが、中間業者を入れず、直売のみにすることによって、価格も2作目のLocalismと同じ1500円に戻せた。年々価格が上がっていくのは、制作者サイドにとっても、誠に不本意なことであったが、折角の機会なので、少し脱線して、CD制作の裏話を披露してみたい。

 サポーターズCDは、前述の通り、2002年にその歴史が始まった。ほかのクラブでは例を見ない、クラブとサポーターの共同作業である。クラブがサポーターに制作を委託しているわけではないし、むろん、サポーターがクラブに企画を持ち込んだわけではない。ただ、お互いの熱意が方法を模索し、クラブとサポーターの垣根を越えたこのような商品が誕生した。しかし、事業とはちょっと違うと思う。なぜなら、スタート時に「何者も利益を生まない、求めない」という崇高な主義を取り決めたこともあるが、そもそも、このような応援歌CDは制作コスト(制作費、時間)がべらぼうにかかるため、仮に利益を生む商品としてみた場合、非常に効率が悪いのである。形式的には全18曲からなるアルバムだが、それぞれの曲全てに許可申請、アレンジ、録音、著作権料等が発生するので、少し乱暴なたとえだが、18曲のシングルCDを一気に制作していると考えてもらうと、およそのイメージがわくかもしれない。また、蛇足ながら、18曲だけを制作しているわけではない。結果的に許可が下りなかったため収録できなかったが、今回のCDでも、坂本、松下、河原、内田などの個人ソングも、マスタリングを残すだけで完成はしていたのだ。

 このような歴史を経て、現在に至るサポーターズCDだが、批判がないわけではないことは承知している。一部の人間の商行為や売名行為のように思われたりするのはさすがに心が痛むが、6作目を迎え、マンネリ感も否定できないなか、人によって制作者サイドの自己満足に映るのはある意味仕方のないことだと思っている。実際、ほぼやりたいことを実現させた2003年のLocalismで打ち止めにしたら、勝ち逃げの形でピリオドを打ったら、どんなに楽だっただろうと思うこともある。

 初期作の頃に比べると、周辺をとりまく環境、空気は激変しているといっても良い。ただ、変わらないのは、このCDが、新潟のクラブ、サポーター、スポンサーのあり方を象徴する商品であるということだろう。合理的に考えれば、手間だけかかってしまうこの商品の制作をやめてしまうという選択肢もありなのかもしれない。ただ、そういう合理性だけでは片づけられないナンセンスさが新潟の良さだと思うのだ。たとえば、投資の見返りを求めるのなら、リスクだけ大きくてリターンが少ないこのCDに参加するスポンサーなどいるわけがない。ぶっちゃけで言えば、そもそも市民クラブにすぎない新潟というクラブにスポンサーとして名乗りあげてくる企業は、どこも見返りや採算などを度外視した、男気やロマンに溢れるところばかりだと思う。このCDの制作についても、すべての過程を見ている僕なら言えるが、よくもまぁ、これだけ割の合わない仕事を嬉々としてやってくれているなぁ、と本当に頭が下がる。ゴール裏を中心としたサポーターしかり、作業時間、素材も極めて限られている中、与えられた環境でベストを尽くそうとする制作スタッフしかり。

 話は再び、今回のFEEEVER2!!に戻る。15曲目に収録されている「Fly」を紹介したい。制作したのはzoppを中心とした、新潟とは縁もゆかりもない人達だ。ちなみに、zoppって誰?と思った諸君。迷わず、いますぐ検索して、彼の過去作品を見てくれ。
 彼らと僕らを繋いだのは、アイスホッケーの坂田淳二選手だった。ある時、東京で会ったとき、「実は・・」という形で彼らの存在を知らされた。Jリーグはもちろん、暇を見ては海外に飛ぶほどの筋金入りのサッカーファン。そんな「通」な彼の心を打ったのがアルビレックスのサポーターだと聞かされたときの僕の驚きと誇りは想像してもらえるだろうか(笑)。彼はこう言ったそうだ。

「まさか、日本でこういう光景が見られるとは思っていなかった。小さい子からお年寄りまでが、満員のスタジアムに集い、チーム愛いっぱいにみんなで声を張り上げている。暖かな、そしてなんと幸せな空間なんだろう」

 彼は、是非チームのために曲を作らせて欲しいと言ってきた。予算的にお金が取れないから無理ですという反応に対しても真っ向から否定してきた。ゴール裏の特定の人だけではない、スタジアムの誰もが声を揃えて歌える歌を作りたい。チームカラーに染まった満員のサッカースタジアムで、チームを鼓舞するためにみんなが大合唱する。それが自分の歌だったらこんなに幸せなことはない。これは僕の夢でもあるから、こちらからお願いしているんです。

 彼は正真正銘のノーギャラ。それどころか、スタジオ使用料をはじめとした一切の制作費を自腹でまかない、さらには版権までクラブに無償で与えて作品を完成させた。ハードスケジュールの中、時間を縫ってスタジオにこもり、坂田選手をはじめとする仲間で作り上げた。本来は、作詞家らしく、もっと沢山の詩で埋まっていたのだが、スタジアムで歌って欲しいという実用性を重視して、色々マイナーチェンジが行われていった。この曲には、その坂田選手をはじめ、サポーターもコーラス部分で参加している。

 学術的に解説すれば、サポーターズCDは、こういうナンセンスな人間と企業の非合理的行動から成り立っているといってよいだろう。繰り返しになるが、昔はそんな勢いだけの活動ばかりだった。
 結局、ものごとに理由などないのだと思う。理由付けを求める時点で間違っていると思う。こういうナンセンスさこそがサッカーファンであり、ここまでの新潟の成長を支えてきたのではないだろうか。少なくとも、J2の頃はそんなことが当たり前だったように思える。しばし、弱気になる僕の方が、こうしたスポンサーや、クラブ、仲間の姿に大いに励まされている現状をみるに、「守りに入っている」、「J1ボケしているのかもしれない」と恥ずかしくなる。思えば、PENAPALSもレ・フレールもサポーターズCDが縁となって生まれた絆である。そういう意味で、新潟のサポーターズCDは、単なる音楽CDを超越した文化だと言っても過言ではない。

 スタジアム販売のみにした効果もあったのか、先日の発売日は驚くほど売れた。僕も売り子としてたったが、実際商品を買い求めに来てくれるサポーターの姿を見ると、一気に心が癒されるし、とりわけ、毎年、購入してくださる人には本当に感謝してもしきれないぐらいありがたく感じている。はっきり言って、クラブが赤字を食らうリスクもあったのだが、今週末の売り上げ次第ではなんとか回避できそうだ。

 僕としては、サポーターのためにリスクを背負ってくれたクラブのためにも、曲を提供してくれたzoppをはじめとする多くの関係者のためにも1枚でも多く売りたいと思っている。そして、僅かかもしれないが、黒字という形でクラブに還元できると嬉しいなと思っている。そういうわけで、興味のない人、失った人もこれを機に、再びCDを手に取って欲しい。FEEEVER!!を作った頃のあの熱を、勢いをサポーターからも感じたい。ちなみに、僕の中の金字塔「Localism」は、1万枚完売の記録を打ち立てている。

2007年8月28日 12時37分

PROFILE of 浅妻 信(あさつま まこと)
1968年生まれ。新潟市出身。新潟高校卒業後、関西で長い学生時代を過ごす。アルビレックスとの出会いは99年のJ2リーグ開幕戦から。以来、サッカーの魅力にとりつかれ、現在に至る。2002年、サポーターのみでゼロから作り上げたサポーターズCD「FEEEVER!!」をプロデュースして話題に。現在もラジオのコメンテーターだけでなく、自ら代表を務める新潟県社会人リーグ所属ASジャミネイロの現役選手としてフィールドに立つなど多方面で活躍中。